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執筆者の写真ゼミ 横山

舞台現場の現状と未来を覗く

寅川英司氏インタビュー

取材日:2021年12月03日

津田瑠奈・高原明日香・根間るる・張藝逸


ー寅川英司プロフィールー

技術監督 舞台監督。愛知県出身。

TV、舞台、スチールなどの子役として業界に入る。上京して大学在学中に舞台にのめり込み舞台スタッフに興味を抱く。卒業後からフリーの舞台監督として小劇場中心に劇団公演に参加。BATIK、salvanilla、山海塾、能などで海外公演を多数経験。

2009年からF/T(フェスティバルトーキョー)技術監督、2016年にさいたまトリエンナーレ技術監督を務めたほか、ミュージカル、コンテンポラリーダンス、舞踏、能楽、その他イベント等、多様なジャンルに携わり現在に至る。


──幼い頃から表舞台で活躍されていた寅川さんが、大学時代に裏方に興味を惹かれた詳 しい経緯を教えて下さい。


小さい頃から芸能事務所に入って芸能活動をしてきましたが、一番面白かったのが舞台の仕掛けでした。その仕組みをいちいちスタッフさんに聞いていた子供時代でした。上京して大学で演劇をやりましたが、舞台制作は初めての人がほとんどでした。余りにも経験値がかけ離れていたから、雑務だとか進行だとか裏方のことをやることがとても多くなりました。もとは役者をやりたかったのですが、台詞を覚えるのが大嫌いで苦手でした(笑)。当時は小劇場ブーム(注)で色んな小さい劇団がありましたが、大学3年生頃からそういう所にふらっと顔出して「手伝います!手伝わさせて下さい!」って言ってたら呼ばれるようになりました。卒業して半年くらいバイトしながらそんな感じでした。

(注)1980年代には野田秀樹、如月小春、鴻上尚史など小劇場の「第三世代」の登場により、若者を中心に小劇場ブームが起こった。


──今でも表に立ちたいなって思う瞬間はないのですか。


SPACの芸術祭(注)のダンス部門に27、28歳くらいのとき出場しました。spacダンス部門で出演をしてグランプリをとってのがラストでした。そこからはもうずっとスタッフです。


働き方について

──この仕事で「壁」になることはありますか。


「仕事を続けられるか続けられないか」というのが一番大きな壁です。特に女性は、結婚、出産だとか人生の通り道で障害が出てきます。この生ものを扱う世界だと休みを取ることもままなりません。一方で、3年後にまた戻ってきますというのが通用する業界でもあります。子どもが手が掛からなくなったら戻ってきたいという人もいます。


──働き方については、何が一番の課題だと思いますか。


社会全体の「働き方改革」の波が少しずつ舞台業界にも来ていますが、役者にしてもスタッフにしてもフリーランスにしても、作品を作る時って時間が限られているからどうしても働きすぎになるんですよね。たとえば通し稽古の前に帰れるのかっていったら帰れないじゃないですか。そういうふうに、現場に入ったら朝から晩まで通しでいるのが普通だという考え方がまだあります。


海外では当たり前のように2シフト、3シフト制が導入されていて、ある程度の引継ぎをしたあとは「知らなくても仕方ないよね」くらいのスタンスで回っています。日本人の性格的に難しいかもしれないですが、誰かがそうしていかないと身体が持たないし、社会との適合性も取れなくなるし、いつか事故が起きてしまうかもしれません。だから、今後はどんどんメスを入れていかなきゃいけないと思います。


僕の会社では週休2日制と朝番夜番のシフト制を推進していますけど、それでも現実的に人手が足りなければシフトを組む余裕がない時もあります。それを補填するために、本番は付かないオブザーバー的な演出できる人を付けたり、日々試行錯誤していますが、まだ難しい部分はありますよね。一方で、若い子たちは比較的「社会がそう(=働き方改革)だから演劇もそうでないと」という考えのもとで育ってきたと思う。だから若者も、朝から晩まで舞台作って時間がいくらあっても足りないとか、レッスンたくさん入れて身体をいじめ抜くとか、そういうやり方以外でのスキルアップ方法もあるはずだと考えて、模索してみてほしいなと思っています。


現場におけるわざ

──舞台監督に必要な知識は膨大にあると思います。寅川さんはまず何から覚えていったのでしょうか。


たしかに膨大な経験量と知識量が必要です。技術監督やプロダクションマネージャーもそうなのですが、その技術に対してお金と労力がどれくらいかかるかまで考えられるのが、一流の仕事の出来る人です。なのでとにかく現場に出て何でも興味を持って、自分のことをやるだけじゃなくてそれ以外のことに目を配ります。そしてなぜそうなったのかっていう過程と結果をクリアにしていく。


例えば、スモークマシーンで1分煙が出ました。これはどういう仕組みでどういう操作をしてどういう成分で、このマシーンはいくら掛かるんだろう。ただ煙が出てる機械なんだけど、そういう機械はいくつもあります。だから手っ取り早いのは機材から覚えていくことです。操作してる人を見て興味を持つのが、自分の知識を早く増やしていくコツです。興味が無いからぼーっと煙が出てるのを見てるだけ人が大半です。自分の興味があることしかやらないのは普通のことですが、こういう職業を目指したいのであればそういう細かな所を気にしていく、わからなければ聞く、それでもわからなければ調べます。これが常日頃ですね。

  

──2.5 次元ミュージカルや伝統演劇、野外劇など、ジャンルを越えて仕事をされていますが、それぞれの現場が持っている特色をどう捉えていますか。


普通バレエとかミュージカルで現場に来るときは「おはようございます」って言いますよね。終わったあとは「お疲れさまです」って言って。一方で例えば、能と狂言って実はそういう表現じゃなかったりしますよね。どの時間帯でも「こんにちは」、終わった後も「ありがとうございました」です。「お疲れさま」は一切言いません。同じ芸能でも、ジャンルが違えば背景の文化も違うし、挨拶からして違うっていうのは面白いことかもしれないですね。


能・狂言でも現代風にアレンジするものもありますが、それにしたって本来は本舞台があって四本柱が立ってて、地謡がいてお囃子がいるという基本を理解している必要があります。業界用語も仕事の格好も全く違うから、そういうのは覚えないといけないですね。


野外劇は、やる場所で全く変わってきます。ベネチアでは水路を使って運搬したり、北海道のような豪雪地帯はそりで搬入したり、灯油がない地域で魚油を使ったりします。とにかく場所によって色々特長があったりするので、野外劇においてまずは、人が1、2週間生活できるようなライフラインを整える事が大事ですね。



──稽古で気をつけていることと本番で気をつけていることの違いは何でしょうか。


稽古場と本番で違うのは、まず場所ですよね。稽古場でやっていることを本番でもやらなければいけないので、できるだけ本番に近いような環境を稽古場に作ることは意識しています。ただし照明は稽古場では組めないので、暗転の意識とか「暗くなること」にはとてもとても気をつけています。若い頃に奈落の下を担当していた時に、暗転したら袖中にハケる予定だったダンサーが奈落で血まみれになってるのを目の当たりにしました。やっぱり、そういう「暗いところで行われる」というのが本番とか現場っていうものだから、本当に気をつけなければいけないなと思います。


あとは高所作業や照明の漏電や火柱をあげるような特殊効果装置の安全管理も、本番に入ってからじゃないとできません。ギャラリーから人が落ちてきたのを見たこともあるし、重い鉄骨の山が崩れて足が下敷きになってしまった人もいます。また、そういうリスクを伴うなかで装置の知識や経験が浅い若いスタッフだけを配置すると危険だから、同時にベテランスタッフやその装置のプロを配置するということもしています。どれも稽古場でやれないことを現場でやるわけだから、そこに対する危機管理は常に気をつけています。


──ベテランの方を配置されるとのことでしたが、その中で、わざが伝承されていくということもあるのでしょうか。


まずは経験値ですね。ベテランが大切だなと思ったエピソードがあります。舞台でドーベルマンというすごく力がある犬を出さないといけなくて、舞台上にボルトのような大きな穴を開けて、どうしてもそこで犬を食い止めないといけないという演出でした。劇場と交渉した時に、その穴はどうやって埋めるかの話になりました。全然思い浮かびませんでしたが、ベテランスタッフが「同じ檜素材の割箸を削って埋ればいいじゃないか。普通のメンテナンスだよ」と、なんでもないように言っていました。劇場さんも納得して簡単に問題解決しました。やっぱりおじちゃんたちは引き出しが多いですね。


それから、例えば、床リノリウムにダンスマットひいたり、パンチカーペットをひいたりして、両面テープでしっかり留めたりしますね。だけど、僕の前の世代だと、テープがない時代で、どうしたと思います?

──釘で打ち込むのですか?


もちろん釘で両端を留めたりしますが、あとは何もしないんです。別にペラペラしていてもいい、テープがなかったら、何も貼らなくてもいいんです。現在は安全管理が向上したし、資材が溢れてより便利になってきているけれども、そういう発想はやっぱり大事なんです。テープがなかったら、「テープを探さないといけない、どうすれば止められるんだ」みたいに固執しないで、「テープなしでもやれるじゃん」という発想ですね。前の世代の人がそうやって言ってくれたりするのはやっぱり救いだったりするし、自分にも勉強になると思います。

──見て学ぶということですよね 。


そうですね、これはなかなか言語化できないです。トラブルは常に特殊例でしかないので、マニュアルに「穴を開けるために箸を削ればいいよ」と書いてあっても、「は?」みたいな反応になりますね。危機に立たされてアィディアを捻り出すことは舞台監督に求められますが、そこでどういう引き出しがあるかが個性であったり経験値だったりします。


わざを伝える

──コロナ禍で、わざの伝承にあたって「やりにくかった点」はありますか。


コロナ禍に限定すると、やっぱり距離感を作らないといけなかったから、なるべくリモートでやりました。知りたくても聞けない、教えてもらえないというもどかしさが、みんなにあったはずです。実際教えないといけないことや、やらないといけないことは当然言いますが、それを深掘りしたり、説明したりする時間がほぼ取れませんでした。そのため、経験はさせてあげられたけど、伝承はできていないと思います。

──「やりやすかった点」はありますか。


資料は増えました。リモートで説明できるように、資料を集めて見せるという資料準備がかなり進められました。具体的に言うと、自分の家にある機材を全部写真で撮り、リスト化し、個数も数えました。4000近くあるんですよ。それを全てデータ化したのは、今回の功績です。例えば、「机はうちにいっぱいありますよ、小道具で使えますよ」という時に、「今こういう机がありますよ」とウェブで見せられます。今後にも繋がる改善ですね。

──昨今はスタッフや後輩たちとの「飲みニケーション」のような交流機会を設けづらかったと思いますが、そんな中で繋がりを深めるために意識されていることはありますか。


別に飲まなくてもいいよね(笑)。コミュニケーションを取れれば、このようにゆっくり喋って一個一個について丁寧に教えてあげられる時間を取れればいいです。昔話になりますが、元々おじちゃん、おばちゃんはいちいち教えてくれず、「見て覚えろ」「自分で考えて動かないといちいと教えていたら時間足りない」というのが普通でした。でも今の時代には、教えること、会話をすることが当然第一に大切なことです。ただし、本音で喋ったり、人間らしい喧嘩ができたりするのは、「飲みニケーション」の良いところです。


演劇は、コミュニケーションをして作り上げてくるもので、書類で作り上げたようなものではありません。雑談や馬鹿なことでもいい、喋った量で変わってきます。人間の距離を近づけていかないといけません。ということで、なるべく喋ってあげることを意識しました。

──マニュアルやノートなど、舞台監督のわざを言語化したものはあるのでしょうか。


あることはあります。しようと思えばできるが、そこまでは全然していなくて…

──例えば私たちが事前の予習で読んだ『舞台監督読本 舞台はこうしてつくられる』という本がありましたが…


これはコロナ禍で舞台監督同士が集まってできたものですよね。これはね、皆の舞台監督のやり方を文章化するという話が出て、僕がメンバーたちの資料の構成について、slackとzoomでベテランの舞台監督さんらが長年かけて資料を集め、皆で相談しながら監修して作りました。ただし、本人たちのやり方を一冊で見せるだけなので、舞台監督と言われる人全員が同じような考え方でやっているということとは全く違いますから、色々な考え方があるなというふうに読めば良いです。情報がない学生さんはやっぱりこれを読んでほしいし、そういう人のために作って良かったと思います。


あとは、家にあるものに限定しますが、2003年からずっと自分がやってきた舞台の写真をアーカイブとして撮り溜めていて、どのようなことをやったのかみたいな記録を作るようにしました。これはいまうちにいる人間たちが全て閲覧できるようにはしています。若い人たちがわざわざ劇場に下見に行かなくてもいいように、劇場のあらゆるところを写真で全て撮っています。図面と備品表は簡単にウェブで手に入りますが、現場はやっぱり行かなければ分かりません。今の演劇で使われているようなものを必ず写真と動画で撮って、説明書もちゃん作り、Dropboxに入れたりします。水、火花などの特殊効果の動画もすぐ閲覧できるようにしています。このように撮ってやれば、経験のない子でも、すぐに演出家に見せることができ、圧倒的に色んな時間を短縮できます。言語化というわけではないけど、若者が使えるツールを作ってあげています。



──インターンなど後進の育成に携わっていらっしゃいますが、そういった指導の場で一番心がけていることはなんでしょうか。


年代によって違いますが、1年生は辞めさせようとします。続けさせようとしていない。僕の育成方針なのですが、「とにかく演劇は辛いし、大変だし、こんなこともやらないといけないんだ。だから辞めた方がいいんじゃない?」って言います(笑)。


──(笑)。


嫌がらせじゃないですよ?嫌がらせとかパワハラとは全然違う言い方ですが、それをバネにしてもらって生き残れるかどうかというのをふるいにかけて見ているというのが、1年生の育て方ですかね。


2年生3年生くらいになってきたら、基本的な演劇に対してしがみついてでもやりたいという気持ちがまず中心にあります。この段階でも、技術だとかテクニックだとかを覚えるというのは二の次ですかね。基本的に現場に入れば、体に染み付いてきます。自分のやりたい、動きたいことを勝手に身につけてくれるので、徐々に「こうした方が良い」とかだけ教えるように心がけますね。細かいことは言わないですね。自分のやりたいことを見つけさせます。例えば、演出部だけがやりたいって言ってる子に対して、「ちょっと舞台監督のワークスケジュールの資料を見様見真似でいいから作ってみなよ!」とか色々やらせたりして、興味を外に向けさせるというか、色々なことに興味を持たせるように心がけています。


3年4年5年になったら、もうどんどん教え込みます。「それは違う」とはっきり言います。そこで意見対立するようなこともいっぱいあるので、飲みニケーションとかが必要になってくるんです 笑。


5年以上続けられる人は多分ほぼ死ぬまで続けられますね。見ててそう思います。でも20年30年選手はこれしかやれないと思います。他の業界に行っても多分何もできない。スキルの伴うような仕事というのはなかなか難しいかもしれないと思います。

──学生にアドバイスや伝えておきたいことがあれば教えてください。


まあ気持ちですね。一番最初の面接で「舞台のなにが好きなの?」っていうのを聞いて、それに対して「いやそれあんま面白くないよ、面白くないけどやってみたいの?」と突っ込みます。それでも好きなことにとにかく自信を持って、今の自分に自信を持って、信じて突き進むというか実際に行動に起こすということが大切かなと思います。なので舞台監督やりたいと思うのであれば、舞台監督をやるためにはどうすればいいのというところから始まって、本を読むでもいいし、就職面接をするでもいいし、やりたいと思うことをとにかく調べて、それに近づく努力をしていけば自ずとなれるようになると思います。


あと新卒さんたちが舞台に入って来られる環境というのがさらに狭き門なってきています。新卒でコミュニケーションが取れなくて辞める率も高い。育てたいんだけど、精神的ストレスだとか体に異変を起こしたりすることとかがやっぱりケアできなくて、新卒を取らずに中途採用を取るというのが業界の現状ですかね。舞台業界も、今仕事だいぶ戻ってきてますし、コロナ禍を生き残れた会社はまた新卒取るっていう流れではあるかもしれませんが、やはりすごく厳選してたりとかするので、まあなんだろうな、「チャンスを掴んで!」という (笑)。役者とか女優さんに言うような言葉かもしれないけど、スタッフにも同じことが言えます。チャンスを掴むしかないから、出会いを大切にしてくださいって感じですかね。


今後の展望

──今後の目標はなんですか。


今日喋って一個目標ができました。これは僕にとって嬉しいことです。本を作ろうかなって思います。データ化して言葉にして公開することを目標にしてみようかな。

──すごい!楽しみにしてます!


逆にいい目標をもらいました。あとは海外の演目だとか演劇シーンをもっと勉強したい。海外から来る演目とかは日本とは全く発想が違って、もともと大好きなんだけど、やはり文化の違いなのか、こういうシーンが出来上がるにしても、そのシーンのギミック、見せ方というのが全く違うから、とにかく勉強にしかならないです。


海外に行ったときもいろんなお芝居を見に行ったりしてましたし、日本に来る時も学生の頃とかはずっとひたすら海外の演目ばかり見続けたただのミーハーなのですが、それがやっぱすごい糧になっています。そのおかげで30代前半からフェスティバル/トーキョーの技術監督を任せてもらえるようになって、もう十数年やり続けています。外国の人達が来た時に、こういうシーンを作りたいんだと話し合えるようなテクニック、技を一緒に勉強できましたし、身につけられたりとかしてたので、それをやはりまだ続けたいなと思います。特に今は全然できないし、この2年間英語を一言も発してないのですが、英語で舞台作りたいという気はしますね。


ところで太陽劇団ってフランスの劇団知ってますか?


──はい。今回の東京芸術祭でも映像上演してましたよね。


(太陽劇団と)ずっとやりたいです。昔のおじちゃんたちはフランス行ったときに会ってしゃべって日本に来てくれみたいな話は飲みながらしていて、相馬千秋さんとかフェスティバル/トーキョーでも日本に呼べるようにずっと動いてたんですけど。とにかく太陽劇団を日本の屋外で呼べたらもう引退だねって言ってるくらいすごい好きですし、それがやりたいな。そこをいまだに目標にしたいなとは思っています。


番外編

──現場に入る前のルーティーンなどはありますか。


あんまりないんだけど、強いて言えば「現場のことは現場に入ってから考える」ことですかね。たとえば稽古場でずっと同じ曲を聞いていると、家に帰る時もその曲がつきまとって、寝る時にも嫌というほどその歌詞が流れてきます。何故か分からないけど無意識に口ずさんでしまったり、「この曲のこのタイミングでこの物出さなきゃいけないな」「今日失敗したところ、明日はうまくやらなきゃ」というのが延々頭の中を回ったりして、なかなか寝付けないことがあります。一個一個考え始めたらキリがなくて、24時間ずっと仕事しているような状態になってしまうんですよね。


そんなことしていたら身が持たないので、現場以外ではなるべく「考えない身体」を作ろうと思っています。朝起きても何も考えずにお花に水をあげたり、犬に餌をあげたり、ご飯を食べてスマホをいじってニュースを見たり。そして、現場関連で失敗したこととかやらなきゃいけないことは、職場に行ってからようやくビデオを見返したり人に聞いたりします。そういうふうに「現場のことは現場に入ってから考える」というのがルーティーンです。


取材を終えて

津田瑠奈

私は以前から舞台におけるリスクマネジメントに関心を持っており、現場には重いものや高低差のあるものなど危険な機構が多く存在していること、そしてそれだけ多くのリスクが潜んでいるということは理解しているつもりでした。しかし今回の取材の中で、寅川さんが実際に目撃したアクシデントについて伺った時には、現場/リスクというものが一気に現実的に感じられ、正直足がすくむような気持ちを覚えました。また私自身、大学卒業後は照明スタッフの道を進むということもあって、大変身の引き締まる思いでした。今回の取材に際して得た知識や寅川さんから教えて頂いたことをしっかりと胸に刻み、今後の活動に活かしていきたいと思います。


高原明日香

寅川さんが実際に舞台で経験されたことを具体的に話してくださったので、とても臨場感があり私自身ドキドキハラハラする取材でした。現場で経験を積むことで知識や技術が身についていく舞台芸術において、直接現場に行けず、人ともなかなかコミュニケーションが取れない現在は苦しい状況にあると仰っていました。しかし、この経験から舞台現場の働き方や技の伝承方法が「変わらないもの」と「変わっていくもの」に分岐し、これからどのように発展していくのかとても楽しみです。この記事が、将来舞台関係を目指す学生さんだけでなく全ての人にとって、舞台を新しい角度からより面白く、深く観るきっかけになれば嬉しいです。寅川さん、貴重なお時間を頂きありがとうございました。


根間るる

プロの現場の第一線でご活躍されているからこそ見える現代の舞台現場における課題や実態を鮮明にお聞きでき、今後につながる大きな学びになりました。私は卒業論文のテーマとして「日本における舞台芸術と市民社会の関係」を取り上げ考察しています。今回のインタビューを通じて、関係性をより深く捉えるためには舞台現場における「働き方」も重要な要素であると気づきました。貴重なお時間をありがとうございました。


張藝逸

今回舞台監督として活躍している寅川さんの話を伺い、とても興味深いと思いました。今の日本における持続可能な舞台芸術の環境を作るためには、働き方の改革と、若手の育成が必要です。舞台芸術におけるわざは、長年かけて得た現場経験でありながら、言語化し難い情報でもあります。今のような特別な時期において、既存の経験とやり方が通用しませんが、時代に合わせてデジタル技術を活用する伝承も新たな可能性を示しています。また、寅川さんの自身の経験と助言がとても印象的です。自分も舞台関係の仕事を目指している者なので、興味を持つ、勇気を持つ、探究する精神を忘れずに、人生の道を歩んでいきたいと思います。貴重なお話を本当にありがとうございました。



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