LOCKダンスで伝える個性と文化
- ゼミ 横山

- 2021年6月29日
- 読了時間: 14分
更新日:2021年7月2日
LOCK DANCER YUI
門野はるか・岩崎 ゆう・吉原 琢朗

ロックダンサーYUIこと北見 優衣さんは、立教大学経営学部国際経営学科4年生。2003年からダンスを始め、幼少時から演劇やバレエ、Tapなど様々な表現を学んでこられました。12歳で初渡米し、16歳で世界タイトルを保有します。2017年には史上最年少でOriginal Lockers Master Awardを受賞。現在はTAKARA氏とともにダンスユニットRevetyとしても活動中で、ダンススタジオで指導も行なっています。今回は、そうした指導者としての経験も含め、若くして多彩な経歴をお持ちのYUIさんに、ロックダンスにおけるわざの伝承や、新型コロナウイルス禍の影響による指導方法の変化などについて、オンラインでインタビューをしました。
基礎練
──YUIさんはどのような練習をしてこられましたか?
4歳からダンスをやっているのですが、始めた頃はただインプット。教えてもらって繰り返す練習でした。少し上達してからは、教えられたことに何かプラスして練習を変えてみるようになりました。世界一のエンターテイナーになりたいという夢ができたので、まずは日本一になることを目標にして、日本で活躍する人に習いに行きました。高校では、留学するタイミングだったこともあって、目標に向けて自分で論理的に練習するという生活でした。
──幼少期は、振り付けの練習と基礎練習はどちらが多かったのでしょうか?
基礎練です。与えられた振りを120%で踊るために、自分のスキルを上げるというイメージで練習していました。
──基礎練は今でも続けていますか。
もはや基礎練しかやってないですね。基礎練はやめたことがないです。基礎ができていないとダンスの説得力に欠けるので、私は基礎を大事にしています。たまにダンスがわからなくなる時に、ダンスが楽しいから始めて続けているという気持ちを見失いがちなので、原点に戻るために、自分の師匠に教わったことをやります。気持ちの面と説得力の面、この2つの理由で基礎練を大事にしています。
自分のスタイル
──ダンスチャンネルの動画を拝見しました。Fiveの説明の際に、「自分の好きなスタイルを見つけて」とおっしゃっていました。実際のレッスンでもそのように教えますか?
私が持っている週一のレッスンは、ダンスを楽しみたい、身体を動かしたいという生徒が多いので、厳しくはせず、スタイルをお任せしています。強制はしません。自分が好きな踊りすればいいし、自分がかっこいいって思うダンスを信じればいい。ダンスは楽しいから始めるものなので。スタイルにもいろいろあります。ロックダンスのうまい人は背が小さい人やこじんまりした人が多くて、私みたいに手が長い人はあまりいなかったんですが、逆に身体をもっと使ってもっと長く見せて、迫力あるスタイルに変えたっていう経験があって、だからそれぞれの身体が持っているものを武器にした方がいいと思っています。生徒に「それぞれが持っているものを生かせたら唯一無二だよね」という話はしますが、強制は全くしません。
──手が長いとコンプレックスになることに驚きました。
ロックダンスに限らず、ストリートダンスは猫背になってしまうことがすごく多いです。そもそもロックダンスは細かく動かすことが多いので、長いよりかは短い方が動きやすいということはあります。でもキックの時とかは、逆に長い方が迫力が出るので、身体を生かして唯一無二のスタイルがある方が強いかなと思っています。
──動画の中で「女性はこうした方が」とおっしゃる場面がありましたが、女性と男性でダンスに違いはありますか?
「女性だから男性だから」というのとは少し違って、自分がどういうスタイルが好きか、どういう動きをもっているかを重視しています。10人いれば10通りの踊りのスタイルがあって、正解はないんですね。私の場合は、自分らしい表現は何かということを突き詰めてくる中で、手の長さやしなやかさが活かせると思ったので、いわゆる女性らしい表現になったのかもしれないです。
もちろん、女性だから男性の動きをやっちゃいけない、男性だから女性の動きをやっちゃいけないということは全くないです。ただ、その前提の上で、一般的な傾向として、女性が得意なこと男性が得意なことはあると感じています。教えるときにも、例えば男性には「筋肉を弾く感じ」というふうにパワー面で伝えた方がわかりやすい。一方で女性には、「リラックスして抜く過程があってからメリハリではめるように」とか、「抜きを意識するように」と伝えた方がわかりやすいと思っています。抜きとかリラックスとかは、身体の作りの関係上、男性より女性の方が得意ですし、私自身それを突き詰めてきたので、そのような言い方をした方がわかりやすいのかなと思います。
重心も男性と女性で違って、女性はお臍から指3本上の丹田に、男性はみぞおち、女性より少し上にあるそうです。私は女性ダンサーとしてやってきて、そういう体の感じ方に基づいてわざを身につけてきたので、そこからわかりやすく伝えられたらと思っています。
わざを伝える
──動画の中で、ダンスを始めたばかりのときは上半身と下半身、別々で練習するのがいいとおっしゃっていましたが、レッスンの際も振りをつけるときは別々で教えるのでしょうか?
まずは分解して別々で教えます。ロックダンスって、手と足をどっちもすごく使うんですね。他のダンスだったら手がメインだったり、ハウスだったら足を使うのがメインだったり…。ロックダンスはけっこうテンポも速いし、手と足全然違う動きをするときがあるから、そこは分解して教えてます。
──既存の名前のついてない細かいムーブのニュアンスを伝えるときはどうしますか?例えばわざとわざの繋ぎのときに、名前のついてない動きが入ってくると思うんですけど、そういうのを伝えるときはどうしますか?
ロックダンスって五つの動きが基本となっていて、全部そこに通じると思ってます。そもそもの根本にあるリズムに対して、「アップ」と「ダウン」。これがどの動きでも軸になります。ダンス全体の軸ですね。だからまず、そこに立ち戻って、それを交えて説明するかな。アップとダウンを応用して、動きのニュアンスが出るように。
──教える時に擬音語・擬態語を使いますか?
使いますね!
──使った方が教えやすい?
ダンスはニュアンスとか質感が大事で、ふつうの言葉だけでは伝えきれないものなので、擬音語とかを使った方がわかりやすいのかなと思います。
──動画の中で、「鉄棒に掴まる感じ」という表現がすごくわかりやすいと感じました。このような表現は自身で考えたものなのですか?
自分の中で自然と根付いていた表現ですが、たぶんどこかで教わっていると思います。「納得!」って思って自分も使っているんだと思います。
──鉄棒に掴まってとか、前から押される感じとか、そういった表現は対面のレッスンで、実際に鉄棒を掴むとか、押すとか身体を使って教えるのでしょうか。
触るとかはしないですけど、殴られてる動きをしてみせたり、そういうことはします。壁を使うこともあります。
指導することによって得る発見
──人に教えたとき、自分にフィードバックはありますか。
あるある、めちゃくちゃあります。教え始めてからわかったことです。さっき「分解して教える」って話したじゃないですか。それこそ全くダンスがわからない人に教えようとすると、丁寧に分解しながら「どうしたら理解できるんだろう」って考えるわけです。自分一人ではいつも分解しないままだから、「これってこういう要素にも分けられるんだ」っていう発見が、そいういうときにめちゃくちゃあります。何から合成されているのかとか、分解したときに見えてくる。
──相手が上級者か初心者か、センスがいいか悪いかで教え方は変わると思いますが、そのときのフィードバックも変わりますか?
うまい人の中でもAさんとBさんがいたら、その人ごとに指導方法も異なります。習い方がそもそも違うし、やっていることも違うし、フィードバックはもちろんない人はいない。だから、答えとしては、フィードバックは変わります。
ロックダンス

──ロックの特性について伺いたいのですが、ロックっぽさを出すためのアイソレーションの工夫はありますか?
たとえば「アップ」のときですね。ロックダンスってビートが強くて、ストップが多いダンスなんですね。だからビートも強く取ったほうが良いので、首を後ろにスライドしてアップを取る。で、後ろにスライドって限界があるから止まるけど、逆にパーティーグルーヴとかは、カチッカチって止まらない動きだから、「抜ける」感を出して、音が伸びるような、続いているようなアップの動きをさせたい。その時は後頭部を意識して、引っ張られている感じっていうイメージ。それでアップの使い分けをしているといったことはありますね。
──たしかに動画の中でも、バードがロックで独特とおっしゃていましたが、首から下がアップのときもダウンのときも、首はずっとアップで音を取っていますよね。そういうのが珍しいなって思ったのですが、他にもロック特有の動きがあればお伺いしたいです。
めっちゃありますね、それ。バードのダウンのときの首のアップっていうのは「ダブルアップ」っていうんですけど、けっこうその概念がロックダンスにはあって、だいたいロックダンスってアップの踊りなんですね。ダウンで踊る機会があまりない。例えば、Cross HandもStop and Goも、アップに合わせて、ステップが生まれています。さっきのダブルアップ──ダウンのときにもアップでやるっていうような動き──は、低い位置のときとか、低い位置で「ロック」からの「&アップ」でもう1回上げたりするときみたいな、そういうところで使います。
ルーツ
──ロックダンスのわざのルーツは考えて指導しますか?例えばバードって、鳥に由来してますよね。実際に鳥の動画とか、見ますか?
ロックダンサーでいうと、多分ほとんどの人が鳥は見ない(笑)ゴキブリを叩く動きとかあるのよ、ロックダンスって。全然見ません、そんなの(笑)
──ではダンスの動きは、純粋に「形」として捉えているという感じでしょうか。ゴキブリを叩くところからきた動きだ、というような「意味」ではなく。
意味の説明はしますよ。ロックダンスってめちゃくちゃわざの名前少ないんです。あやふやですけど、20個ちょっと、多く数えても40個くらいしかない。例えばStop and Goっていう動きは、名前の通りストップしてゴーするとか。Which-a-Wayだと、どっち行くのって言ってるとか。そういう名前とルーツはもちろん理解しているし説明もするんですけど、実際自分がバトルで踊るときとかに意識しているかっていったら、全然意識してません。音楽に合わせて対応してやっていこうっていう思考だけがある感じです。
──教えるときとか、自分が吸収するときは意識するけれども、それを形として練習して、どんどんダンスとして昇華されていったら、もう意識しない?
そうですね。ルーツはいつ意識するんだろう…。動きを自分の中に落と込んで入れるっていう段階だったら、絶対ルーツは意識します。でもその後は、魅せ方の問題。ロックダンサーは、音に対しての動きのアプローチっていう思考が強いから、例えばカ、ダダダっていう動きだとしたら、カで止まるけどダダダはこういうふうに表現するとか、そういう思考になっていくんですよ。だからルーツを意識っていうのは、その前段階ですね。
ロックダンスの変化

──ロックダンスは、YUIさんのダンス歴の中で、評価ポイントが変わったり、進化したり、そういった変化はありますか。
最近だったら「振付系ジャンル」がすごく人気があったり、ロックダンス界の中でもスタイルの流行はありますね。例えば、JUSTE DEBOUTみたいな大きい大会で優勝した人とかの影響がけっこう強いかもしれないです。
──わざも増えましたか?
ダンスのわざとかステップってすごく定義が曖昧だから、何が新しいとか言うのが難しいんですけど、増えているとは思います。ジャズロックのステップを取り入れたりして日本で流行ったりとか。そもそもジャズロック自体は古い歴史があるものだけど、日本に来たのは最近で、それをステップ化しているような人がいるから、一応新しいわざっていうのかな?その程度ですけど、流行はあります。「オフィシャルかっていうとオフィシャルではない、だけどなんかみんなやっているな」みたいなところから、次第に新しいわざとして認められていくのかも。
指導法の変化
──ダンスの指導方法は、YUIさんの中で変わってきていますか?
教え始めたのは大学生になってからだから4年しか経っていないですけど、やっぱり教えることですごく発見もあったし、「こういう方が伝わりやすいかな」とか考えてきたり、学んできたりしたから、指導方法も変わってきたと思います。伝え方のバリエーションが増えました。ただし、根本的に自分が大事にしているものはあまり変わってないです。レッスンの流れもそうだし、「こういう風に理解してくれたら嬉しいな」とかそういう考えは変わってなくて、それを伝えるバリエーションが増えたっていう感じです。
──新型コロナウイルス禍において指導法は変わりましたか?
オンラインだと、質感はやっぱりどうしても見せづらくなって、難しくなってしまったかなと思います。それからロックダンスって、パーティーグルーヴ、日本でソウルダンスって言われるジャンルとすごく相性がいいダンスで、私もそれを取り入れたスタイルが好きでやっていますけど、パーティーグルーヴっていう名前の通り、アメリカのディスコから生まれたから、ペアとかで人と一緒に踊る、コミュニケーションのダンスなんですね。今は、密を避けるために人に近づけなくなっちゃったし、そこは悲しいところです。でも、離れていても全然「楽しもうぜ」っていうスタンスは変わらないので、そこは自分の中では、あまり大きく意識しないようにはしています。
──なるほど。
ニュアンスとか質感はどうしてもやっぱり生で見た方が得るものが大きいし、Zoomとかオンラインで工夫するにしても、カクカクしちゃったり、音がずれちゃったり。でも、そういう工夫する時間を与えられたっていうのは、ダンサーの世界にとって大きかったです。
──逆にオンラインで良かったことはありますか?
「これって後ろから見たとき、背中が丸まっているよね」みたいに、いろんな角度から見られるというような利点もあります。それからスタジオだと、先生によっては1列目とか真ん中の方とか、一部しか見ない傾向もあるんですね。私は全員見るタイプだから私自身はそこまで変わってはいないですけど、一般的に言うとオンラインのダンスレッスンになって、いろんな人を平等に見るようになっているのかなっていう気はします。
逆に教えられる側、生徒さん側からしたら、抵抗というか、敷居が低くなったかなって思います。新しく挑戦したいジャンルとかがあっても、直接行ったら、できない自分が恥ずかしいとか思っちゃうじゃないですか。オンラインだと、そこの抵抗がなくなってきたのかなとか、手を出しやすくなったかなって気はしますね。
おわりに
──最後に YUIさんが考えるロックダンスの魅力を教えていただけますか。
そうですね、何よりも楽しませるっていうところから来ているダンスなので、そこが一番の魅力ですかね。元々ロックダンスは、ダンスができなかった人から生まれたんですね。クラブとかでパーティーグルーヴとかがあってみんなが気持ちよく踊っているときに、楽しくも気持ちよくもできなかった人が、「固まっちゃった」ところからロックダンスって生まれて、最初バカにされていたんですよ。でもそれをかっこいいっていう風に進化させていって、まだ白人しかテレビに出られなかった時代に、黒人チームとして初めて「ロッカーズ」って人たちがテレビの子供向けの番組で踊って。それで人を楽しませたり、笑顔にさせたりする。そこがルーツのジャンルなので、すごく魅力的だなと思うんです。私も、それが自分の性格にハマったから、今ロックダンスやっています。自分が楽しむことで相手も楽しませるみたいな、そういうところは特にロックダンスの魅力なのかなと。
──人を笑顔にするっていうのが、YUIさんの軸になっているんですね。
もちろんそうですね。それからもう一つ言うと、わざの数があまり多くないから、ある意味決められた動きの中で自分の個性を表現できるってところもすごく面白いところ。自分の個性を生かして、形にこだわったり、どうやったらもっとかっこよく見えるかを工夫したり。それも面白いって思えるところですね。
──今日は本当に貴重なお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございます。

取材を終えて
門野はるか
インタビュー全体を通し、「ダンスが大好き」ということがひしひしと伝わってきました。YUIさん自身が上達するために、唯一無二である手足の長さやしなやかさを突き詰めてきた経験が、ダンスの指導方法にも表れています。YUIさんの指導クラスはきっと楽しいものなのだろうと感じ、1度YUIさんの元でダンスを教わってみたいと思いました。
岩崎ゆう
私もジャンルは違いますが、フィギュアスケートという身体表現活動を行なっています。伺ったお話には、新しい発見も、共通点も多くあり、とても面白かったです。特に自分のスタイルのお話は今まで私自身が持ったことのない視点で、このような捉え方もあるのだと、良い学びの機会になりました。ダンスの楽しさを伝えようとするYUIさんはとても素敵な方で、充実した楽しいインタビューをさせていただけました。
吉原琢朗
私自身、ストリートダンスをやっている者として、今回のインタビューはたくさんの学びがありました。ただわざを教えるだけでなく。ロックダンスの歴史やバックグラウンドを咀嚼して伝えるYUIさんの言葉や指導には、大きな説得力がありました。ダンスというと揃えることが美学とされがちですが、ひとりひとりの身体的特徴と向き合い、個を尊重する姿に感銘を受けました。






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