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  • 執筆者の写真ゼミ 横山

コロナ禍、コール禁止のアイドルライブ現場

鈴木 里夏



はじめに


アイドルのライブにおけるコールとは、アイドルヲタクが曲の間奏などの様々なタイミングで叫ぶ掛け声のことです。日本のアイドルのライブ現場において、客席のヲタクによる声出しは、会場に一体感をもたらす、ライブの醍醐味のひとつでした。


コールには、曲間にタイガー!ファイヤー!などと叫ぶMIX、うりゃおい!イェッタイガー!などと叫ぶ合いの手コールなど、様々な種類があります。「グループアイドルの世界観共有と補完」という論文で江口久美さんは、アイドルライブ現場でのファンのコールについて


「群れとしての作者」として参加するファンが集団的・中動的に行っているもので、それによりアイドルの世界観が補完されており、アイドルの未完のストーリーを繰り返し更新し、常に変化を続ける現象を示している。


と述べています(『〈キャラクター〉の大衆文化 伝承・芸能・世界』KADOKAWA、2021年、第13章)。


しかし、新型コロナウイルス感染症が流行した影響により、「ライブハウス・ライブホールにおける新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」において場内における大声での歓声・声援の自粛が定められています。声出し不可のアイドル現場では、どのようにしてアイドルの世界観の補完がなされているのでしょうか?私がコロナ禍で訪れたライブ現場をレポートします。



櫻坂46『Sakurazaka46 1st TOUR 2021』@埼玉スーパーアリーナ


欅坂46が櫻坂46に改名し、開催した最初のツアーの最終公演でした。驚いたのは、来場した観客全員に無料でスティックバルーンが配布されたことです。これは、コール禁止の代わりに導入されたもので、コロナ禍で開催された坂道グループのライブでは定番化されているようです。メンバーが観客を煽ったり、問いかけたりした時の返事や、挨拶への反応、アンコールの際などに声や拍手の代わりに使われていました。



面白かったのが、『ブルームーンキス』という楽曲でサビの前にセリフパートがあり、そのセリフ後に一斉にスティックバルーンの音が鳴り出したことです。ヲタクの声にならない叫びが無機質な形で音になっているのがカオスでしたが、声を出せない寂しさが緩和されていて効果的でした。櫻坂46の公式チャンネルで見ることができます。

https://youtu.be/CxNxYa0bYxo(0:37)


このスティックバルーンは他の48グループのライブでも用いられていたようです。



MAPA『祝狂生祭vol.6 ミームトーキョー編』@六本木BIGHOUSE


MAPAはコロナ禍に誕生したアイドルグループで、祝狂生祭は、月に数回ゲストを呼んで行われる定期公演です。今回はミームトーキョーという、でんぱ組.incなどが所属する事務所所属のアイドルとの対バンでした。


なんとMAPAも、グッズの一万円購入者限定で、メンバーの手書きメッセージ入りスティックバルーンを配布していました。ただ、これはメンバーがスティックバルーンを持って踊る楽曲があり、その時に一緒に振りコピをするためのもので、音を鳴らすためではないようでした。


ライブ中は、推しの色に光らせたペンライトを持ち、とにかく全力で振りコピをして楽しんでいるヲタクの姿が印象的でした。箱が狭いので、比較的容易にファンとメンバーが目を合わせてコミュニケーションを取ることが出来ると感じました。


これはコロナ禍に限ったことではないですが、対バンでは、推しのグループの出番の時は前に、対バン相手の出番の時間はそのグループのヲタクに前に行ってもらうというように、譲り合っていました。


ミームトーキョーのヲタクは、体でライブを楽しんでいるような印象で、MAPAのヲタクよりも激しかった印象です。曲調も楽しみ方もグループによって個性があるので、フロアの雰囲気もガラッと変化してくるのが面白いと感じました。ライブでの一体感の生み方が一通りではないことがわかります。


ExWHYZ『ExWHYZ First Tour “xYZ”』@Zepp Haneda


ExWHYZは、2022年6月に突如解散したEMPiREというグループのメンバーで再結成されたグループで、再結成後初のツアーの東京公演です。


公式グッズのTシャツに青く光るライトバンドをつけている人が圧倒的に多く、ロゴのアートワークから連想される青と白で会場が埋め尽くされていました。いい意味でアイドルっぽくなくて洗練されたExWHYZの世界観が客席にも伝染しているかのようでした。


ライブ中は、「一緒にジャンプしてほしい!」とメンバーから指示があったり、クラップで客席を煽ったりとメンバーが会場に一体感をもたらしていました。また大多数が自然に振りコピをしていて自然に一体感が生まれていました。ダンスミュージックがベースになった楽曲が多いのも相まって、アイドルの現場というよりもダンスフロアのような雰囲気がありました。やはり身体をつかって音や動きを揃えることが一体感を生み出していると感じました。私も最初は少し周りを気にして楽しみ方を探っていましたが、だんだん会場が温まり、何も考えず音楽に身を任せて楽しむことができました。


また、メンバーが「いまここに立てるのはみんなのおかげ」というニュアンスの言葉をたくさん話していたのも印象的です。ヲタクとアイドルの支えあっている不思議な関係性を垣間見たようでした。生の現場は感謝を伝え合う場所でもあるのだと思いました。




最後に


それぞれかなりタイプの異なったアイドルの現場でしたが、どのライブにも同じように、声出し以外の方法で全力で推しに熱狂するオタクの姿がありました。観客側の服装や雰囲気も推しのアイドルの個性によって全く異なってくるのも面白く、客席もまとめてプロデュースされているかのようでした。


現場を提供するアイドル側も、今までに無いグッズを登場させたり、煽りの方法を変えたりすることで、声出し不可の寂しさを感じさせないライブ体験を作り出す工夫がなされていると感じました。今回レポートはできていませんが、ももいろクローバーZは、LIVEでは定番のコールなど、全13種類もの音声が内蔵されている音声内蔵ペンライト『MCZライブ声援ペンライト』を発売しています。


このように、アイドルのスタイルや会場の規模によって方法は様々である一方、共通点もあります。それは、現場が「一回きり」の、アイドルとヲタクのコミュニケーションを図る場所になっているという点です。この点について、西兼志氏は『アイドル/メディア論講義』(東京大学出版会、2017年)において、ベンヤミンのアウラの概念を参照しながら「「アウラ」を、音楽に回復させるのが、ライブという一回的経験だ」と指摘しています。このことは私がレポートした全てのライブに当てはまっているように思います。コロナ禍でも、ライブのもつ特別性は失われていませんでした。


コロナ禍のアイドルライブ現場では、今までオタクの声が果たしていた役割を試行錯誤によって埋め合わせ、会場に一体感をもたらし、コロナ以前と同様にアイドルの世界観の補完が続けられていることを実感しました。コロナ禍によって変化したアイドルのライブ現場が、今後どう発展していくのか注目していきたいです。







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