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技術スタッフは何をする

  • 執筆者の写真: ゼミ 横山
    ゼミ 横山
  • 2023年5月23日
  • 読了時間: 7分

更新日:2023年6月6日


折笠汐音



はじめに


私はエンタメ関連の裏方のお仕事に興味があり、過去にアーティストのMV制作やテレビ番組、音楽イベントの現場で音響や映像の技術スタッフとしてお仕事をしていた高一寿さんに、技術スタッフとは具体的にどのようなことをしているのか、お仕事の詳細について詳しくインタビューをしました。



高一寿


フリーランスで音楽イベントやMICE(展示会・見本市)の技術スタッフに従事。コンテンツ制作。大規模野外フェスにおける大型LEDビジョン映像機材オペレーションなども担当。

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本人提供


―過去に携わっていたエンタメ関係のお仕事についてお話をお聞かせください。


以前はイベントなどにおける技術スタッフをしていました。コンサートの時に後ろの機材エリアにいる人です。いろんな分野がある中でも映像と音響両方の技術スタッフをしていました。現在はフリーで音楽コンテンツの制作をしたり、いろんなことをやっています。



ミキサーとマスタリングという作業について


―録音のお仕事でミキサーをしていると伺いました。ミキサーについて調べた際、各素材の調節を行う作業だということがわかったのですが、具体的なプロセスをもう少し教えてください。


一つの曲を制作する時には、まず企画が存在してゲネ(最終の通し稽古)を行います。先にスタジオをおさえて、そのスタジオでやって、うまくいくのか確かめるんです。それは大体うまくいくので、本番に入って録音を行います。バンドかソロかでまた違ってきますが、バンドの場合、決まった順番があってドラム→ベース→ギターorピアノなど→歌という順で録音をしていきます。素材が集まってきたら、そこで“ミキシング”というバランスを整える作業を行います。この段階で3段回くらいの作業数ですね。ミキシングが出来上がったら、次は視聴者の耳にどういう聴かれ方をするのかを合わせる“マスタリング”という作業を行います。例えば「カーステレオで流すとどんな感じか」みたいに環境を想定して作業をします。それが最後の工程で、トータルして4段階ほどで一曲完成します。


―マスタリングは、実際に試すということですか。


いや、試すわけではないです。例えば、k-popの音楽とクラシックの音楽とではCDの音量が違うじゃないですか。その調整をすることを“マスタリング”と言うのですが、k-popやダンスミュージックを聴く場合、迫力や勢いのある方が良いから、音量を上げて聴くと想定されます。ですが、クラシックを聴く場合も同じ音量でというわけにはいかないでしょう。曲によって聞かれるシーンを想定し最終調整を行う作業が“マスタリング”といって、決まった工程があるんです。昔は音響も全て分業で行なっていたのですが、近年は機材が安くなったこともあり1人で行うことが増えましたし、私は現在自分で一連の作業を全て一人で行なっています。


―ミキシングやマスタリングにおける調整作業は、感覚で行うのですか、それとも数字が決まっていて合わせるのですか?


数字が打ち合わせの段階で大体決まっています。RMSという音圧単位でk-popはこのくらい、クラシックはこのくらい、j-popはこのくらいとジャンルによって数字が決められているため、それに合わせて調節を行っています。やっていることには全て裏付けがしっかりあるので、その通りに作業を進めるだけです。私たち音響技術者っていうのはクリエイターではないので、基本数字を見て作業をしています。


―その作業はずっとパソコンと向き合って行うのですよね?


そうです。自宅に作業部屋があって、ひたすらパソコンと向き合って作業します。


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ミキシング&マスタリングを行う自宅作業部屋



―ライブエンターテイメントなどで使用している機材やその用途を教えてください。


音響機材はQL1という機材で、映像はBARCO E2という機材を主に使用しています。どの現場でも割と同じものを使用していますね。


現代のテレビって16:9という比率が決まっているじゃないですか。横長の。でも、コンサートの場合はもっと大きくなってとんでもない比率になるんですよ。そうなると普通の映像機材では制御できないし、プロジェクターでも16:9しか出せないから一台では足りなくなるため、3台使って映像を投影して一つの絵を作るようにします。それをやっている機材がBARCO E2という機材で、最先端のものです。大きな映像が演出で使用されるようになったのは最近のことで、プロジェクションマッピングと同じような原理ですね。


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現場で使用する音響機材「YAMAHA QL1」



―3台使用すると映像が被ってしまうと思うのですが、それはどうするのですか?


重なってしまう幅を薄くしたりブレンディングという編集技術を使って綺麗にします。


―それらの機材は自分で揃えているのでしょうか?


現場には自分の身体のみで行き、機材は会社が持っているものをオペレートしに行くという感じです。



技術スタッフの苦労と面白さ


―今まで、様々なアーティストのMV撮影やテレビ番組、イベントに携わってきたと思うのですが、一番大変だったお仕事はなんですか。


一番大変だったのは、マッピングを使用したMV撮影のお仕事ですね。創作物(まるい創作物)に映像をフィッティングをするというのがあって、背景の映像なんですけど、それは二、三日寝ないで作りました。

もう一つは、大変だったことではないですが、一度韓国でお仕事をした時に、日本と違ってリハーサルを全然しないということに驚いたこともあります。番組収録でもイベントでも日本はやりすぎなくらいリハーサルを行います。日本は段取り9割と言われているんですよ。日本では練習で100万回くらいやったから本番は楽勝でしょうというくらいの心持ちでやっています。


―では、お仕事をしている上で面白いこと、または辛いことはなんですか。


録音するときに面白いことは、先ほども言ったように数字に沿った作業を行う仕事なんですけど、演奏している人は人間じゃないですか。だから、雑談力が大事な時が意外とあって、コミュニケーション能力というのかな。


前に、ギターのソロ曲を録音するお仕事があって、なんかイマイチなんだよなって思って、休憩を入れて雑談をしていたんです。時期が春だったから、春にまつわる話を緩くして、また録音再開したら、次のその演奏がすごく緩くなってしまって、まずいと思って、次の休憩で少し緊張感のある話をしたら、休憩後の演奏がちゃんとした緊張感のある演奏ができるということが多々あって。自分とのやりとりで演奏の結果が変わってくということが面白いと感じましたね。女性の歌手は特にその変化がわかりやすくて、不思議だなと思いながら面白いなといつも感じています。辛いことは、やっぱり寝られないことですね。


―職業病はありますか?


ありますよそりゃ。コンサートや映画館にお客さんとして行った時に僕は真ん中の席しか取らないです。なぜかというと、真ん中が一番正しい音を聞くことができるからです。“サラウンド”と言って、前だけではなく後ろや横からも音が聞こえる状況があるのですが、真ん中に座ればどの音も平等に届いて聴こえるため必ず真ん中を選びます。コンサート会場の機材が真ん中にあるのもそういうことで、あの位置にいる人が一番綺麗に聞こえるように音響は調節されているため、真ん中で鑑賞をしているのです。音の基準は真ん中ということです。他者と行く時は真ん中にこだわらないです。一人の時のみ必ず真ん中を選択します。


―音響と映像では行う作業も使う機材も異なると思うのですが、共通して必要なスキルは何かありますか。


物事を忠実に捉えられる人かな。指示を出してくれるディレクターがいるから、その人の言うことをちゃんと理解できることが必要だと思う。昔は特に分業で行なっていたから、音響も映像もできる人ってなかなかいなくて、おそらく時代の変化だと思うんだけど、テクノロジーが発展しているおかげで今は1人でもできることが増えたと感じています。特別必要な資格や才能はないです。


──貴重なお話をありがとうございました。


こちらこそ、ありがとうございます。



取材を終えて


技術スタッフの中でも、高さんのように音響と映像両方に携わっている技術スタッフはなかなかいないということでした。同じ裏方の仕事でも音響と映像では異なることをしていて、交わることのない仕事だということを初めて知りました。また、音を作るお仕事は担当の人の感覚で行うものが多いと思っていたので、録音する順番や決まった数値があることに驚きました。表には出ていない縁の下の力持ちというような、見えないところで作業をしてくれている技術スタッフの方が居るからこそ私たちはエンタメを享受できているのだと改めて感じ、ありがたい気持ちでいっぱいです。


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