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ダンスと演劇の表現を超えて

  • 執筆者の写真: ゼミ 横山
    ゼミ 横山
  • 2024年12月20日
  • 読了時間: 26分

更新日:1月20日

—梅棒 伊藤今人氏インタビュー—


桑原菜緒、藤原希、大畑凛、倉本彩花、千徳小夏、宮本栞里



伊藤今人さんプロフィール


(ご本人提供)


日本大学芸術学部在学中の2001年に梅棒を結成し代表となる。俳優、演出家、ダンサー、

イベントMCとしても活動している。俳優としては劇団「ゲキバカ」にも所属。これまでに

100本以上の舞台に出演し、振付や演出を手がける。2009年に愛知県で行われた演劇博覧会「カラフル3」では最優秀賞、2010年の第22回池袋演劇祭では豊島新聞社賞を受賞した。



ジャンルごとの技の伝え方の違い


──梅棒には、俳優、ダンサー、アイドルといった様々な職業の方がキャスティングされて

います。異なった得意分野を持つ方にダンスや演劇を伝えるうえで、それぞれ伝え方の違い

などはあるのでしょうか。また、梅棒がゲストの方々から何かを学び、ご自身の活動や舞台

に活かされることはあるのでしょうか。


客演(=梅棒メンバー以外の出演者) とは一緒に作品を作っていくという感覚で、指導とい

う立場では考えていないです。


ダンサーは稽古初期の振り入れが速いです。俳優はダンスでは遅れをとってしまうけれど気

持ちを繋げることは得意なので、通し稽古とか1回流れでやってみましょうってなった時の

段階で役者としての経験を活かしてくださる方が多いです。逆にその点では、ダンサーは振

りは速いけどお芝居として繋がっていないということがあります。


アイドルは、ダンスもお芝居も経験がある。そして、ご自身の役を魅力的にみせるというこ

とを自然にしてくださる方が多いです。


そのため、1回目2回目の通し稽古まではダンサーが主体となって稽古が進んでいきます。

しかし3回目、4回目の稽古になるとお芝居も含めて気持ちの繋げ方が上手な役者がリード

していくという流れになります。


最初はダンサーが役者をリードするというか、助ける形なのがだんだんと役者がダンサーを

助ける形になる。お互いが助け合う形になることが梅棒では多く、このスピード感の違いが

面白いなと感じています。


そして台詞がない分、「この部分ってどんな気持ちでいますか?」とか「次の展開に自然に

繋げるために、ここで肩叩いてもらって良いですか?」とか、出演者同士のコミュニケー

ションが密に行われます。


「自分のパートだけできればいい」という考えで成立する演劇もありますが、曲に合わせて

なんとなく作品を進めてしまってはお客さんがストーリーを理解できない。演劇を良いもの

にするために、強制的にコミュニケーションを取って台詞がなくても分かるような身振りや

動きを出演者全員で作っていきます。


話をまとめると、俳優、ダンサー、アイドルとそれぞれ得意分野、不得意分野があって、そ

れぞれが補い合いながら、関係性が深まっていくことが梅棒の良いところだと思っていま

す。演出としては、指導するというよりは、演出プランは持っているけど一緒に作品を作っ

ていくという感じです。この場面でこういう感情になってほしい、誰々にきっかけを与えて

ほしいという条件は渡すけど、それから作品をどうするかっていうことは、役者に任されて

いる部分が多いです。


客演や役者がたくさんのことをプレゼンしてくれるので、ストーリーや出演者の見せどころ

の割合を考えながら取捨選択をすることが私の仕事だと考えています。


──梅棒メンバーやジャズダンス経験者と、未経験者との間では振付をする際に違いはあり

ますか。


まずそのシーンや音楽に向いてるダンスの長所をそれぞれ伝えて、「今回はこちらにアジャ

ストしてください」っていうふうに言います。


確かにジャズダンスは演劇との親和性が高いし、切ないシーンとかバラード的なシーンだっ

たらジャズが合うかもしれないけど、コミカルなシーンにはストリートダンス系が合ったり

もする。それぞれのダンスにも長所と短所があります。ストリートダンスの人には「感情的

なものがあるからその動きになってるんですよ」っていうのを、逆にジャズダンスの人とか

「今動きの綺麗さとかは関係なく面白きゃ大丈夫です」みたいなときもあるわけです。


元々ストリートダンスやポッピンとかだけやってる人が、一か月半の稽古だけではジャズの

動きを習得することってけっこう難しいです。だから僕の感覚としては、最低限のターンの

タイミングとかダウンしてアップするとか、必ず揃えなきゃいけないところは揃えるし、そ

の方が美しく表現できてないと損しちゃうよってところは言うんですけど、何がなんでも

ジャズのメソッドを完璧にしてくれっていうことではやっていません。


梅棒はストーリーダンスなので、「ただ踊るのではなく役者としての"気持ち”のダンスにし

てください」って言うことの方が多いと思います。今どういう気持ちでこのユニゾンダンス

に入って、これが終わったときにはどうなりたいのかっていうのを踏まえた上で踊らない

と、「ただ踊るだけになってるよ」っていうふうに言ったりすることは多いかもしれないで

す。


あとは、全員が同じニュアンスの動きをする必要はないとも考えています。役によっても下

手な方が面白いこともあればキレキレに踊って面白くなるってこともあるし。ニュアンスは

ちょっとばらけてるけど、その役として踊ってるわけだから、その役だからこそのダンスと

して成立することが重要っていうか。


キャスティングする際にそれは想像してるし、この人はこういう踊り方したらこう面白くな

るだろうなっていうのがあるから、あくまでもその役として踊ってほしいと考えています。


(筆者撮影)


──梅棒でも、多和田さん(※)など、結成後に加入された方もいらっしゃると思うのです

が、世代が増えるにつれ、梅棒の技はどのように伝承されていったのでしょうか。


※多和田任益 ...俳優。2020年梅棒に加入。


「加入したから伝えます」って伝えたわけじゃないけど、何が魅力なのかみたいなのは客演

として出演するなかで多分本人が積極的に学んでくれていたのだと思っています。「一緒に

作るなかで学んでいってね、かつ多和田の良いところももちろん盛り込んでやっていいよ」

という感じで、僕が責任を持つのでやりたいことをやってほしいということは伝えました。

言われたことだけやってると成長しないと思っているので。


入りたいとか興味を持ってくれている時点で、まず梅棒の何がいいのかっていうのを理解し

てくれていると思います。梅棒のメンバーになった次の公演から振り付け担当にもなっても

らうので、そこで作り方を学べるし、任せることで成長してくれる。ペア同士で振り付けと

か構成組んでいくときはこうなんだってのは多和田は学んでくれたと思う。最初は2、3曲

でしたが、今回の第19回公演は6、7曲くらい担当してくれています。


そして入ったからには梅棒の役に立ちたい!振り付け担当になったらこれを作りたい!って

気持ちも絶対あるはずだから「1回やってごらん!」という姿勢です。トライアンドエラー

を通して実体験として身につくから、何が良くて何がダメだったのかとかをより自分の中で

も自覚してアップデートできるんです。


逆に全部面倒見てこっちのやり方にはめ込もうとすると、結局その人がやりたいことができ

ずにその場が終わってしまう。フラストレーションも溜まるし、何がダメだったのかってい

う実体験が得られない。「僕のやりたいようにやれたら面白かったかもしれないのに」って

ずっと思ってしまいます。


だから、例えばそこで100%我々がやりたい方向のベストじゃない表現の仕方になったとし

ても、彼の中でそれが経験として生きて成長したうえで次の公演でまた振り付け担当になっ

てくれるから、長期的に見ると成長してくれると考えています。どうしてもダメだった部分

の責任はとるから、失敗の余白を見込んでやりたいようにやらせてあげると成長速度が速い

んですよね。


新メンバーは客演を経験しているのですが、客演をすると梅棒が大変なのがわかるんです

よ。出てるだけじゃなくて毎晩稽古終わった後に話し合ってるし、通し終わって徹夜で話し

合って、次の稽古のときにめちゃくちゃ変えたプラン持ってきてって。


僕たちが準備してきてるってのも客演は分かるから、「梅棒がこんだけやってるんだから自

分たちも頑張ろう」って思ってくれるし、梅棒に入るということを決意した段階で責任持っ

てこの役割をやるんだってのは僕も分かるから。


人によって熱量の差はあるけど、全員責任を持つつもりで覚悟を持って入ってきてくれると

いうかね。なので、募集したり積極的に若手を増やしたりとかはしてないですね。本当に入

りたい人は言ってくれますから。



全員が積極的に参加するために


──以前「途中で役の性格が変わることがある」とおっしゃっていたのを、雑誌のインタ

ビューで拝見しました。他の劇団では、「このセリフで立って」「この台詞で食べて」と動

きが全て決まっていることもあると思うのですが、出演者にお任せすることの魅力を教えて

ください。


企画の時点で客演にはこれまでのイメージをもとに役を当てます。例えば、「〇〇さんには

わんぱくな表現が似合うな」みたいに。それをもとに役を書いても、実際にお会いしてみて

稽古してみると、恥ずかしがり屋みたいな役の方が実は魅力的で、本人と合っているなと気

付くことがあります。そのようなときに作品の内容を柔軟に変更できると、作品そのものを

より良くできるという利点がありますよね。


他にも、僕はこの人にはこういうキャラクターだと思って当て書きをしたけど、ご本人が役

を深めていったうえで別のやり方をプレゼンしてくるときがあります。このときもその役

や、周りの役に調整を入れたりします。物語の本筋を変えない程度に臨機応変に対応してい

くことを自分の中では大切にしています。


このような仕組みを用いている理由は、出演者が与えられたことをこなすだけの受け身の姿

勢にならないという利点があるためです。作品自体も良い方向に行き、出演者自身も「提案

したのだから責任を持ってパフォーマンスをしよう」と能動的に仕事をしてくださいます。


演出家としては、聞く耳を持って臨機応変に対応することと、出演者が意見を言いやすい雰

囲気を作ること、そしてどうしてもやってほしいことがある場合は抽象的ではなく具体的に

分かりやすい指示を出すこと、以上の3つを非常に大切にしています。


──梅棒はダブルキャストがあると思うのですが、キャラクターの軸はどのようにして決め

ていっているのですか。


ダブルキャストは特に違いを出します。せっかくだから同じようなキャラクターにはしませ

ん。


例えば、前回の公演『シャッター・ガイ』でもダブルキャストの演出がありました。なんと

なく一方はギャル、もう一方はジェンダーレスな感じで行こうかっていうのをあらかじめ決

めておいて、それぞれの他の役との関係性やダブルキャスト同士の違いを演じるなかで決め

ていく感じでした。おばあちゃんとの関係性でも、ジェンダーレスのほうは超過保護で「〇

〇ちゃんよくできたわね」、ギャルのほうは「ババア!うるせえこの野郎」というふうに差

別化されました。


それぞれの魅力を引き出しつつ違いがあった方がダブルキャストは面白いし、予想外のキャ

ラが意外と合ってたなって思ったらそっちに膨らませていくとか。最初の指定はあるけど、

やりながら魅力的な方にアジャストしてくって感じですね。



ご自身が受けた指導を生かして


──現在、伊藤さんは指導を行う側ですが、これまでに指導を受けられることもあったと思

います。これまでに受けた指導はご自身の指導の仕方にどのように影響していますか。


僕が元々いた劇団の演出家の柿ノ木タケヲさん(※)は何も言ってくれない人でした。自分

が演技してダメだったとしても「ダメだね」としか言ってくれない。


※柿ノ木タケヲ...演出家・脚本家。伊藤さんの出身劇団「ゲキバカ」(1998年結

成、2024年解散)主宰。


──自分で探すしかない、みたいな...。


そう。やってダメだと「それカットして。やらないで、セリフカットしよ。あそこ出なくて

いいや」っていう感じで、ダメになった理由も教えてもらえない。けど、すごいストイック

さを学びました。めちゃくちゃ面白いことをプレゼンできるようになってきたら、全部採用

してくれるようになった。最後のほうは自分で成長を感じられるようになったのだけど、こ

の演出家が何を求めてるのかっていうのをようやく感じ取れて、求められていることを実現

できるスキルを身につけたときに、僕のアイデアが全て採用されるようになりました。


そうなる前の時期に広田淳一さん(※)の元で演技を学んだときがあって、自分の未熟なと

ころとか、この台本を読み込めてないところとかを全て指摘していただきました。だけど、

ただ全部否定するわけじゃなくて、「自分の生身でそれを発してない。あなたがそのマイン

ドになって言えてないってことは、ここが足りてないんだ」っていうことを全部言ってくれ

る人でした。ただ、全部言われるとこっちは萎縮しちゃうんですよね。あと、何を求められ

てるかわからなくて結局何をしたらいいかわからなくなるみたいなのもありました。


※広田淳一...劇作家・演出家・俳優。劇団「アマヤドリ」主宰。


そうやって広田さんから学んでゲキバカに戻ってきたら、いつの間にかできるようになって

たんですよ。明らかにカットされなくなったんですよね。さらに任されるようになって、そ

こで主役やらせてもらえるようになったりとかして、変わったんだなって自分では思いまし

た。柿ノ木さんに答えられるようになったっていうプロセスがあったおかげで役者としては

成長できたってのがあるんです。


そして今僕が師事してるのは大学(日本大学芸術学部)の先輩の松崎史也さん(※)ってい

う2.5次元ミュージカルの演出家です。松崎さんの現場に僕が振り付けとして入ることが多

いんだけど、その人は上にあげたどちらのタイプでもなく、コンプライアンスやハラスメン

トにも配慮する、かつ役者から良いところを引き出す一言を言うのが上手くて。具体的かつ

モチベーションを上げつつ配慮もできるっていう人なんで、言葉の選び方が超上手い。具体

的ですごくわかりやすい言葉を、届くトーンで、最低限の文字数で言ってくれるっていう人

なんです。だから、三者三様だけど、それぞれで学んだことがありました。


※松崎史也...舞台演出家。「A3!」「チェンソーマン」など、有名な2.5次元作品を数多く手掛ける。


だから、具体的に言ってあげなきゃいけない。かつ萎縮しないように言わなきゃいけない。

なるべく対等な関係で、向こうからも提案しやすい言い方でなければいけない。その稽古場

と座組の雰囲気に合わせるようにも心がけています。伝わる言葉を伝わる言い方にすること

が、演出家には必要だと僕は思っています。


──先ほどお話しいただいた出演者とのキャッチボールにも繋がりますよね。


そうですね。あとはさっきも言ったけど、プレゼンしやすい環境を作っていく、チャレンジ

しやすい環境を作っていくうえで大事なことがあります。否定をしないことと、向こうがど

ういう意図でやってきたのかキャッチするっていうことです。これは、普通の仕事にも使え

ると思うんですけど、基本的にはスタッフとか演者とか、多分同じ仕事をする人全員に言え

ると思うんですけど、そっちから出してきたものはその作品を良くしようというモチベー

ションでやってくれたことじゃないですか。


「それが違うよ」とか「それダメだね」っていう一言は絶対に言わないようにしてて、それ

がもし自分が求める方向性とは違ったとしても、その努力を評価して感謝しつつ、その作っ

た労力に報いながらどう生かしてやるかっていうのをやると、諦めないでどんどんチャレン

ジしてくれる。まずは「このプロセスでやってくれてありがとう」って評価と感謝をする。

役者にダメ出しをするときのプロセスとして、例えばそれが僕の好みじゃなかったり、それ

が成立してなかったりすることも多々あるんですよ。そのときの僕のやり方としては、まず

あなたが何をやろうとしているかを理解し感謝する。で、それがどう見えているか伝える。

僕がどうしてほしいかじゃなくて。


──客観的にということでしょうか。


そう。今どう見えてるかっていうと、あなたがそうしてくれたことによって、あなたはすご

く目立つようになったし、あなたとヒロインの関係性はものすごくよく見えるようになった

けど、結果、そのヒロインが嫌なやつに見えるやり方になっているよ。かつ、それを見てる

役者がそういう影響を受けるようになってるよ。だから「プロセスはすごくいいと思うんだ

けど、受け取る側と作ってる側としてはそう見えるから好ましくないよね」って言う。「僕

はそうしてほしいんだ」っていう言い方より、「この作品的にこうなってるとおいしくない

よ」っていう言い方をします。「その努力がいい方向に向いてないよ」って言うと納得して

くれます。


だから、「作ってくれたのがいいからそれを活かしつつ言い方変えてみようか」とか、「高

いところに立つのやめてみようか」とかっていうだけで関係性が変わりますよね。「偉そう

に見えるから後ろから話しかけてみようか」とか、「その偉そうに見える言い方は2曲後に

取っとこうか」とかいうふうに活かせる方法を考えてあげています。


「申し訳ないんだけどそうしないほうがおいしい。そうするとおいしくなりすぎちゃうか

ら、控えてもらっていい?」とか。逆に、「今やってくれた案はこっちの方で活かそう」み

たいな。否定するときも「やらないで」って言わないようにする。その一言だけで済ませな

いようにして、努力に報い、感謝して、客観的にどうなってるかを伝えて、どう活かすかを

話すプロセスにしてあげると、敵対関係にならずに納得して動いてくれる。


──なるほど。


それは演者だけじゃなくて、スタッフとの間でもそうです。「プレゼンしていいんだ」と思

える空気を作ると演者のモチベーションが上がるので、そういう現場作りをしています。


偉そうに言うとあれですけど、全部に活かせるように感じています。管理職とか、チームを

動かすといった立場でもそう。今、演出家のハラスメント問題がなかなか厳しくて。どうし

ても主従関係っていうか、権力差が起こりうる関係性だから、誰もがプレゼンしやすい環境

にすると仕事も来やすくなるかなと思います。何より作品や座組がいい方向に向くので。


──たしかにそれが理想的ですよね。


そうできないときもあります。時間がなくてイライラしちゃってそういう言い方になるとき

もあるんだけど、感情的にならずに、そういう言い方になってるなってことにも自覚的にな

ることが必要というか。ありがたいことに梅棒メンバーが言ってくれるんですよ。ああいう

言い方にしたほうがよかったんじゃないですかとか。そういうのに助けられたりとかしなが

ら。


昔は「違ぇーよ」みたいな言い方をしちゃうときもあったけど、今は自分がイライラしてい

ると感じたときは、「おやおや、試練が訪れたぞ?ここを乗り越えるとリターンが大きいぞ!」と思うことで気持ちをコントロールするようにしています。


こちらに挑戦的な人に納得してもらえると「この演出家さんは話を聞いてくれるんだ」って

信頼感を高められるかもしれないし、それ以降のシーンが全部アップデートされる可能性が

ある。そっちのほうが感情をぶつけるよりも追々自分のイライラも減らせるし、一石二鳥で

すよね。


向こうから出てきた反発の感情が、必ずしもネガティブになるとは思わない。努力してきた

のに認めてもらえない、自分に満足な稽古も与えられてない、とかいろんな状況があるから

フラストレーションの原因はなんだろうっていうことも考える。サボってるときはもう評価

できないからそれに関しては「努力が足りてないぞ」って言っちゃうけど。


──いかに演出家に従わせるか、ではないわけですね。


そう。役者と演出家は、主従関係じゃなくて対等だから。役者は役を最大限発揮するための

努力、演出家は全体を見たうえでやってほしいことの取捨選択。どっちも正しいことをして

るから、向こうがそういう意見をぶつけてくれるのも正しいこと。それを聞いてちゃんと意

見をぶつけるのも正しいプロセスと捉えて、ぶつかること自体を変に恐れないようにしてい

ます。


そのために、意見が言えるような環境作りにしていくことが大事だよねっていうことです

ね。どうしても生理的に合わない人とそういう状況になるときって現場では絶対にあるか

ら、演劇を作ってるうえでの反発があれば、いかにそれを肯定的に捉えてぶつかり合いさえ

も必要なことだと受け止められるかが大切ですね。



ノンバーバルの魅力


──(『Only 1, Not No.1』パンフレットより)「聞こえちゃうから言わないんじゃなく

て、セリフに頼って芝居してると伝わる表現にならないから勿体無い」とおっしゃっていま

したが、セリフに頼らないからこそ伝わる表現はどういうものなのでしょうか。また、分か

りやすさを両立するうえでどういう工夫をされているかをお聞きしたいです。


セリフって万能だからもちろん使えると楽なことが多いですよね。だからセリフが使えない

ことで、「セリフが使えれば...くそ〜!(葛藤)」みたいなことめっちゃあります(笑)。


例えば「何やってんだよ!」って言えば、この役はこう怒ってるなって一発で伝わるところ

を、どういう感情で入ってきて何を言って去ってったのか、どう食らったのかみたいのをセ

リフなしでやらなきゃいけないところが結構大変だなと感じます。ただ、セリフで言えば一

発で伝わるっていうところを、あえて動きでやることによって、よりお客さんが深入りして

くれるということがあります。


観ると分かると思うんですが、梅棒公演は客席の集中力とのめり込み方が必要な部分があ

る。想像しなきゃいけない。あの人どういう声で言ってんだろうとかっていうのを利用した

ほうが、より想像力豊かになるというか。


セリフがある芝居でもできることなんだけど、逆にセリフがある舞台だとそこまで考えな

い。セリフ入れちゃうからこれでいいよねってなっているところを、いろんな表現を模索す

る余地がダンスの場合にはあります。セリフで言うよりも、意外とお客さんがキャッチして

くれるんですよね。


──お客さんは考えながら観ているということでしょうか。


そう。セリフを使わないほうがより繊細に伝わるときがあるということです。なんでもセリ

フに頼ると、伝わってる気になっちゃう。実際に梅棒の舞台は曲がかかってるからセリフが

聞こえない。だから、セリフを喋ればいいやってなると、演者間ではできるかもしれないけ

どお客さんには伝わりにくい。セリフを使わないうえでどうするかって考えたほうが、より

わかりやすい表現になるし、より繊細に伝えられるときもあると思っています。


(筆者撮影)



客席を含めた空間づくり


──梅棒公演では、客席降りや手拍子などで客席と空間を作り上げる印象があるのですが、演出上の工夫があれば教えてください。


そうですね。セリフがあれば振動や俳優の息遣いとか、声が飛んでくるからより同じ場所にいるっていう感覚がするんですけど。梅棒はセリフがないうえに爆音で音楽がかかっているから、舞台上を見ているだけだとミュージックビデオをずっと見てる感じになるんです。それだと集中力もなくなってくるから、同じ空間で起きていることですよっていう引き込みやイマーシブ感を担保したい。


同じ空間で生きてることを、お客さんに時々ちゃんと思い出させてその空間にもう1回入り直してほしいという意味で、そういう客席降りのような演出を用いることがあります。


ただ私も2.5次元作品の演出をすることがありますが、「イケメンが近くに行けば盛り上がるだろう」って感覚で絶対意味のない客席降りを作ることはありません(笑)。作品の中で必要だからここを通っていく、ここでお客さんと一体化することが大事だから客席降りにするっていうのを意識しています。客席を置いてけぼりにしないためにってことですね。


手拍子とかは、基本的に梅棒から指定したことはなく、客席から自然発生的に生まれています。各公演ごとに違うし、こちらの予想を裏切ってきたりもする。面白いもので、賑やかなときは手拍子がありますが、ストイックで繊細なシーンになると手拍子がなくなったりするんです。


手拍子に関してのルールは演出側から出したくないと思っています。見てほしいところ、伝えたいことってこっちが大事にすればするほどお客さんに意外と伝わっていて、止めてほしいってところで止まったりするんだよね。 


演劇だから、好きにおしゃべりして好きに掛け声を出したりとかしていいわけじゃない。だけど自然発生的なリアクションも含めて演劇だと思っています。同じお金を払ってきたお客さんがお互いに嫌な感じにならない最低限の観劇マナーを守ったうえで、そうやって反応してくれることを大事にしたいなと個人的には思っています。



これからの梅棒


──最後に、梅棒として今後の舞台芸術の後継者に伝えていきたいことを教えてください。


梅棒として一番大切にしているのは「伝える」ことにこだわりを持っていることですかね。


ダンスを使っている演劇っぽい表現って結構昔からあるんですよ。演劇的なストーリーを用いるダンス公演もあるし、ノンバーバルのミュージカルでダンスをやってるところもある。だけどダンスの身体性とか美しさ、面白い構成とかを優先して舞台作りをすると、結局ストーリーとかその役の感情とかが伝わりにくくなることが多いと感じています。


ダンス表現にありがちな感想として、「ここはよく分からなかったけど良かった」みたいに、伝わってるか伝わってないかで感覚がまず二分化されてしまうことです。伝わらなかったお客さんは作品の意味や感動にたどり着けない。それだとお客さんは作品を100%楽しめていない。


元々ダンスがそんなに上手いわけじゃない自分たちが、上手い人たちに負けないように表現したり、自分たちの良さをぶちかませるのは何かって考えたときに、コミカルな表現だとか、「伝える」ということだったんです。だから、僕が演出する梅棒公演で目指しているのは、一旦全部伝わる、一旦理解できるということです。


なるべく客席にはやっていることが伝わったうえで、「面白かったね」「私の好みじゃなかった」っていう感想を持ってほしい。ダンスエンターテイメント集団として、なるべく100%伝えるということにこだわって、お客さんの読後感を目指すっていうのに挑戦できるのは自分たちだけだと思っていて、それが梅棒の技だと思っています。


上手さでものを言わすっていう技術は自分たちにはないけど、逆に「お客さんに伝える」ことにこだわれるのが梅棒の魅力だと思っているから、演出する段階でも、通しでフィードバックをする段階でも、そこにこだわり続けています。この表現だと伝わらないってなったら1曲減らすとか。曲の振りを全部入れてて、構成もついてるんだけど無くすこともあります。場合によっては曲数を増やすこともあるので、スケジュール的にもタイトです。


この物語がやりたいこと、このキャラクターが何をしてるのかっていうのを伝え切るための創作過程の努力は必要だし、演出として目指すところ。かっこいいダンスとより演劇的で伝わりやすい仕草を、どうしても天秤にかけなければいけなくなったときは必ず後者を選ぶようにしています。


安易にダンスを踊ると抽象的な表現になってしまいます。大変ですが、伝えたいことを一度、全員の身体の動かし方や照明などの技術的なもので具体化していくっていうことを諦めないでやろうと決めています。そこまでできるダンスを用いた団体っていうのは僕たちだけだと思っています。「伝えきる努力と伝わりやすい表現のノウハウを持っていること」が梅棒の技だと考えています。



編集後記


桑原

演出家が出演者やスタッフといかに信頼関係を築き、対等な立場で共に作品を創り上げていく大切さを実感しました。指摘や修正を伝える際、相手の努力や意図をまず評価し、そのうえで客観的にどう見えるかを丁寧に伝える姿勢が印象的でした。否定を避け、感謝を伝えながら共にアイデアを深めていく環境を整えることが、チームのモチベーションを高めることに繋がるということを学び、学校生活等で意識していきたいと思います。この度はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。


藤原

演出において、出演者にも観客にも第一に「伝わる」ことを大事にされていたのが印象的でした。「伝わらないと面白いかそうではないかという感想にも辿り着けない」という当たり前の観点も、制作側にいると疎かになりがちですが、最も重要なことだと今回の取材を通して再確認できました。また、演出と演者の間で信頼関係が築かれるから全員が能動的に作品作りに携わることができるし、それによって梅棒作品ならではの魅力的なキャラクターや熱い感情を生み出せるのだろうと思います。過去にご自身が受けた指導そのままではなく、その経験を基に様々なスタイルを取り入れることで伝え方にもブラッシュアップが行われているという点も興味深かったです。この度は、ご多忙にもかかわらずこのような貴重な機会を設けていただき、ありがとうございました。


大畑

取材を通じて、異なる職業の出演者が集まることで、梅棒ならではの魅力的な舞台が生まれていると感じました。特に稽古では、ダンサー、俳優、アイドルそれぞれの役割が時間とともに変化し、最初はダンサーが主導する稽古から、次第に俳優がその中心を担うというお話が印象的でした。お互いに助け合いながら舞台を作り上げるということが、梅棒の大きな特徴なのだと感じました。また、セリフのない舞台だからこそ、出演者同士の密なコミュニケーションが観客に物語を伝えるうえで重要な要素となっていることが分かりました。この度は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。


倉本

これまで、戯曲の完成とともに登場人物の性格が決まるような作品を多くみてきたため、「作品の途中で役の性格が変わることがある」という作品の作り方について特に興味深くお話を伺いました。出演者が受け身にならずに作品に取り組むことができるなど、これまでに触れたことのない作品の作り方であったからこそ、魅力も存分に学ぶことができました。この度は貴重な機会をいただきましたこと、深く感謝申し上げます。


千徳

ただ美しく見せるだけでなく、観客に「伝える」ことを何よりも大切にしている姿勢に感銘を受けました。「よくわからないけど、なんか良かった」で終わらせず、観客が心から理解し、共感し、笑ったり感動したりできるような演出を巧みなダンス技術だけでなく、自分たちらしいユーモアや温かさを武器に、観客の心にしっかりと届く表現を追求していく考え方を聞けて大変ありがたい時間でした。この度は貴重なお時間を割いてくださり、ありがとうございました。


宮本

今までに台詞を軸として進む演劇を見ることが多かったため、梅棒のジャズダンスとの融合による演劇のお話は非常に新鮮でした。取材では、私自身が演劇の脚本・演出をしているために稽古場においての役者との接し方についてをお聞きしました。その際に演劇ならではの話の中で役者と演出家の関係の形成方法や、稽古への向き合い方、さらに、これから社会に出て集団の中で生きていく中でも生かすことのできるお話も含めお話してくださいました。今後の演劇活動にももちろん、この先の未来へも生かしていきたいです。今回は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。








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