top of page

テクニックを越えたマジックとは 

  • 執筆者の写真: ゼミ 横山
    ゼミ 横山
  • 2022年4月26日
  • 読了時間: 24分

山上佳之介氏インタビュー


取材日:2021年10月7日 場所:立教大学新座キャンパス

文責者:深作・藤崎・吉原・後藤・寺岬



ree

今年デビュー20周年を迎えられた山上兄弟。最年少マジシャンとして一世を風靡し、現在はマジシャンとしてだけではなく俳優、声優としてもご活躍されている兄の佳之介さんにインタビューさせていただきました。パフォーマンスに対する佳之介さんの向き合い方や、考え方、そうなるに至った出来事などに関するたいへん貴重なお話をお伺いしました。



パフォーマンスの構成について


——先日寄席に出演されているのを見に行ったとき、登場してすぐにマジックが始まり、引き込まれました。観客の掴みや、そこからパフォーマンスを構成していくうえで、流れを作るコツなどはありますか。


漫才師は出囃子の後にすぐ出てきますよね。けれどマジックは、出囃子があってから音楽がかかるので、音楽に頼れる部分があり、そこが強みであり弱みです。最初の掴みは、出る前にお客さんの反応を見て変えるときもあり、場所によってはしゃべりながらでることもあります。


最も意識するのは流れを途切れさせないようにすることです。緩急を使ったり、大きいもののあとに小さいものをやったりなど工夫します。


——構成の内容は場所によって変わるということですか?


はい。360度の場所だとすることも限られてきます。マジックのネタは、横から見えることが多いです。だから前で見せなきゃいけないものを横にいるお客さんに見られてしまうのはとても困ります。ショッピングモールの場合だと角度に強いものを厳選しますね。


あとは場所に関係なく、予備をいくつか持っていって、出たときの雰囲気や、その日のお客さんの反応で、小ネタなどの順番や喋る内容を変えることはしています。


——山上兄弟のYouTubeで、寄席の控え室に今日はこういうお客さんがいらっしゃるなどの情報が書いてあるものを拝見したのですが、それも重要ですか?


それは自分たちよりも落語家さんたちにとって重要で、身体にハンディキャップのあるお客さんがいらっしゃったときに、そういう話をあまりしないように控えたり、臨機応変に対応できるように書いています。基本、マジックは持っていったものしか披露できず、それ以上できないという悩みはありますね。



兄弟の関係性について


——お二人の息の合ったマジックは兄弟だからこそだと思いました。兄弟で活動しているメリットについて教えてください。


1つはお互い目を合わせただけで「何が欲しい」や「これをやって欲しい」ということがわかることです。これは子供の頃から2人でやっているからかもしれません。けど、本番中に喋って指示を出したり、打ち合わせをしたりすることもあります(笑)。


——寄席で見たとき、お二人が会話していることに全く気づきませんでした。他にもメリットはありますでしょうか。


音楽がかかっているなかでやるので、お客さんには気づかれないようになっています。いっこく堂さんの腹話術のように、笑った状態を維持したまま喋っています。


2つ目は、2人で1つということですかね。特に自分たちのやっているイリュージョンは1人ではできません。一般的にマジシャンは、女性アシスタントを道具に入れて切ったり、浮かせたりすると思います。でも自分たちは誰の手伝いもなく2人だけでショーを完結できることが強みであると思っています。


——お二人の中で、仕事における役割分担などはあるのでしょうか。


僕が構成を考えている間に、弟の暁之進が衣装の準備や道具の片付けをしてくれています。あと、ショー中のタイムキーパーも弟がやっています。


——YouTubeからも、実は佳之介さん以上に暁之進さんはしっかりされた方だと感じました。


そうですね、日常生活は、弟の方がしっかりしていると思います(笑)。一方で、仕事に関しては私の演出プランに弟が従ってくれるといった感じです。お互いの得意不得意を補っていますね。


——プライベートと仕事でちょうどよくバランスをとっているのですね。


でも、兄弟ならではのデメリットもあります。というのも、学校に行っても、家に居ても、仕事に行っても、常に一緒にいます。だからストレスが溜まってよく喧嘩しましたね。


——喧嘩中にステージがあった時、パフォーマンス中にイタズラをしてしまうことはありませんか。


ありますね(笑)。剣を返すスピードがいつもより早かったり、夏の炎天下でショーがあったときは、箱の中にいれるとき、普段よりも少し長めにいれさせたことがありました。ただ、お互い顔だけは傷つけないようにしています。商売道具なので(笑)。


ree


観客との距離感について


——寄席の雰囲気は、お客さんとの距離が近いと感じました。お客さんとの距離を縮めるために気を付けていることはありますか。


寄席ではお客さんと目を合わせたり、時にはわざと声を小さめに喋って強弱をつけたりすることで、お客さんの意識が自分たちに向くように心がけています。とにかくお客さんに合わせて喋ることを意識することですね。そのためには沢山経験を重ねることが必要だと思います。


——お客さんに合わせた喋りという意識をはじめるきっかけとなったタイミングはいつでしたか。


中学生になって、父の北見伸の代演で寄席に出させていただくようになってからです。当時から勉強になっていたのは、前座さんと師匠クラスでの話術の違いを聞けたことです。話をただ単純に聞いているだけではなくて、落語に入る前の「枕」に注目していました。師匠の中には、いつも同じ定型文ではなく客層や自分のキャラクターに合わせて話される方もいてすごく勉強になりました。


——師匠たちから得ることが沢山あったのですね。


大学では、師匠たちにお話も聞いて、距離感についての卒業論文を書きました。たい平師匠は、寄席が始まる前に一度バレないように客席に行きます。客層を見て、どんな会話をしているのかをリサーチをしてから、ネタにとりいれています。そのような行動が、お客さんとの距離を縮めているのだと思います。


ree


フリートークについて


——『マジックの心理トリック』という本の中で、台本に頼らぬフリートークにこそマジシャンの魅力が際立つということが書いてありました。実際に今まで出会った人でこの人のフリートークがすごかった、魅力的だと感じた人はいらっしゃいますか?


マジシャンでいうと、マギー司郎師匠やマギー審司さんです、求めている言葉やマジックをパッとやることができる方なのかなと思います。あと、ナポレオンズさんも流石です。彼らが出てきたら安心するんですよね。全然知らないマジシャンが出てきても何をやっているんだろうと思われることがありますが、マギー司郎師匠が出てくると期待したものをやってくれるだろうという絶対的な安心感がありますよね。


——佳之介さんはどのようにフリートークを鍛えられてきたのでしょうか。


今もたまにやりますが、僕はおはスタに出演していたときに、自分がどれだけ喋れないかというのを実感し、夏休みの間に深夜の2時、3時からおはスタが始まる7時前くらいまで、その時間帯は喋り続けるということをしました。


なぜその時間帯にしたのかというと、人がいないからです。人がいなければ、僕の話に対してのコメントが貰えません。コメントに頼れば人はいくらでも喋れます。コメントがない中で、どれだけ自分のボキャブラリーを増やして今日あったことを喋り続けられるかというのを眠さと戦いながらやりました。それは喋りをうまくしたいという思いだけでなく、自分の引き出しを増やしたいという意味でやっていた部分でもありますね。


——ストイックすぎます。でも確かに、人の意見などを挟まずに喋り続けるのは日常生活ではなかなかないですよね。フリートークは自分自身の魅力がそこに上乗せされていくものであると感じたのですが、どう思いますか。


経験や自分が培ってきたものが全部出るところだと思います。台本はアドリブがあるにしても、できあがっているものを再現したらいいですよね。フリートークは自分がどれだけ今まで経験してきたことをそこに詰め込めるかが勝負です。自分のことを話さなくてはいけないとなると、自分をより知っていなければならないじゃないですか。自分をどれだけ知っているかって説明できます?


——できないですね。


ですよね。僕も全然できなくて。どれだけ自分の良さを前面に出すか、ただ出しすぎてくどくならないように、どこで少し引くかを考えます。それこそこのようなインタビューでもひとつの質問で全部喋りすぎたら、あとで聞くことがなくなってしまいますよね。だから喋る部分は限定して、相手に質問してほしいところだけは喋らないということを実はしています。

——私たちは知らないうちに操られていたんですね(笑)。



寄席マジックについて


——『図説・日本の手品』では「前に一度見たからつまらないと言うようではマジックは短命になってしまう」という一文を目にしました。観客を同じマジックでも惹きつけるために意識されていることがありましたら教えてください。


そうなんですよ。音楽や漫才、落語とは違って、マジックは「一回見たからいいや」と言われてしまいます。だからテレビ出演では番組ごとに見せたマジックを全部資料として書いて、整理しています。でも、営業ではあまり気にしないようにしていますね。特に寄席では基本的にベースは同じことをしていて、喋りを変えています。マジックを見るために来てほしいのではなく、僕達がするマジックだから来てほしいという気持ちが強いです。


——『タネも仕掛けもございません』では、初代天功さんのような自分の気持ちいいパフォーマンスをする「押しの芸」と、伊藤一葉さんのような謙虚なトークを交える「引きの芸」の二種類のスタイルがあると述べられています。お二人のパフォーマンスは、両者の中間に位置しているのではないかと感じました。


僕たちは、極力見てほしいところで「どうぞ見てください」とパフォーマンスをするけれど、お笑いをする時は、お笑いらしくしています。カッコよく見せるときと自分たちを面白く見せるのを使い分けています。


マジックは売っているものを買ってしまえば簡単にできてしまうからこそ、どれだけ自分たちらしく魅せれるかが勝負なので、山上兄弟らしさというものを日々大切にしていますね。


——山上兄弟らしさを探すなかで、先輩方のマギーさんや、お父様の芸からとりいれることはありますか。


そうですね。父はどちらかというと、カッコよく見せるマジックですね。マギーさんは、ちょっとした自虐的なネタをやって笑いにつなげるマジックをしています。僕たちはマジックだけでなく、喋りもできて、こんな面白いこともできるというのを見せたいと思っているので、両者の良いとこどりを意識しています。


例えば寄席では、僕たちは漫才をしているように話しているのでボケとツッコミで緩急をつけます。そこに自虐ネタも入れますが、マジックをやるときは、しっかりとしたマジックをやり、切り替えも大切にしていますね。


——クロースアップ・マジックは不思議体験を生み出し、それを直に観客と共有することが目的なのではないかと思いました。しかし、寄席ではクロースアップ・マジックと比べ、観客と物理的距離があります。寄席でのマジックは何を到達点としているのでしょうか。


正直、正解はわからないです。僕たちは寄席を筆おろしの場、最新の芸を見せる場だと思っています。また芸を磨くための場にもなっています。寄席に出演して初めて僕たちはお客さんの反応がわかります。一度寄席でお客さんの反応がわかることで、こうしたらいいじゃないか、ああしたらいいじゃないかと考えられるので、営業の場で完璧な芸を提示できるんですよね。


——山上兄弟にとって寄席とはどのような場なのでしょうか。


完璧でないものを見られるのが寄席の場だと思っています。お客さんがいらっしゃるので完璧でなくてはいけないと思っている師匠さんもいらっしゃいますが、僕は実験や勉強の場だと思っています。


——勉強の場ということについて詳しく教えていただけますか。


喋りは芸の一つなので、寄席で勉強して試行錯誤しています。こういうお客さんならどうアプローチしたら、自分たち側に引っ張っていけるのか、お客さんとプロレスのように押し引きをしますね。寄席は自分たちの最新のものが見られる場だと思われているので、僕たちも来てくださった方に向けて、初めてするものを見てください、その反応をください、それを見て僕たちは勉強しますという気持ちです。


——寄席の存在がパフォーマンスの質を高める点で重要な役割を果たしているのですね。


日本だと10日間連続でステージに出られる場所はめったにありません。でも寄席だとそれが可能です。その間は基本同じマジックしかしないのに、毎日来て下さるお客さんもいて有難いです。寄席でお客さんの反応が全くないときは、要因を考えながらも、一方的に僕達の芸をみせる勝負をします。反応があるときは問い掛けをして、押したり引っ張ったりしています。


——普段マジックのためにトレーニングをすることはありますか。


本番の日が近づくと、久々に行うマジックなどは練習することはあります。それこそ新しいマジックは練習しますが、ずっとやってきているものに関しては基本的に練習をしません。あと、人を切ったり、浮かしたりするイリュージョンは道具が壊れやすいのですよ。あんまり練習しすぎてしまうと道具が先にダメになってしまうので、ある程度イメージトレーニングをします。むしろそっちの方が多いかも。


また、幼少期は練習する時間がなかなかとれなかったので、本番中CMの間に父が一度レクチャーしてくれたものを覚えて披露するということがありました。いくつか覚えてくるとパターンがみえてくるので、それをすぐにやって見せるというのはできるようになっていました。


——練習をできないことがプレッシャーになり、緊張することはありませんでしたか?


なかったですね。今の方が緊張します。マジックは緊張感をもってやってはいますが、緊張することはあまりありません。ただ、マジックとは関係ない舞台や声のお仕事などの方が緊張することが多いですね。なぜなら、自分たちだけで完結できないから。マジックは自分たちでどうにかできるじゃないですか。それに対してお芝居は共同制作なので、周りに迷惑をかけないようにという緊張感があります。


——寄席では、トリにむけての空気作りがとても大切だと思います。全体の雰囲気のために、なにか意識されていることはありますか。先ほどおっしゃった、イメージトレーニングの段階でも空気作りは意識されているのでしょうか。


まさにその通りです。寄席に関しては、順番や出演する場所で出し物を変えます。それこそ出番が早い時は、なにも意識せずに、自分たちのやりたいことをします。喋りで終わることもありますし、仲入り前までの出番の場合は結構気にしません。自由にやってしまいます。ただ、後半のときは師匠によって変えます。トリの前のひざでは一切喋りながらのマジックはしません。基本的にはずっと音楽をかけてマジックだけをして、そのまま次につなげます。


——なぜひざでマジックをするさいはしゃべらないことを意識されるのですか。


次にくるものは、喋りがメインだからです。これは暗黙の了解であり、父から教わったことでもあります。音楽だけをかけてマジックを完結させ、次の大トリの師匠にお渡しするということを守っています。仲入り前まではあまり意識していませんが、次の方がやりづらい空気にならないようには意識しています。例えば、ダダ滑りして帰るというようなことは基本NGなので、極力少し盛り上げて高座を下りるようにはしています。トリの師匠が喋っていいよとおっしゃったら、もちろん喋ることもあります。


——喋りのあるマジックと、喋りなしのマジックではどちらの方がやりやすい、自分たちに合っているなどはありますでしょうか。


基本、喋らないとマジックは間がもたないんですよ。一つのネタが2分とかなので、15分間ステージに出るとしたら、喋りなしだといくつもしなくてはいけなくなる。それだと道具を沢山持っていかなくてはいけません。それでは大変なので、極力喋りで普段は時間をつないでいます。だから、ひざは大変です。トリが大盛り上がりになるように、助走をする段階がひざなので、盛り上げすぎず、次の師匠がやりやすいように加減をすることが重要ですね。


——前を意識するというよりは、後を意識するという認識ということでしょうか。


はい。それこそ、前は終わったことですからね。お客さんのなかで、流れを作って見ている方はあまりいらっしゃらないのではないかな。出てきた人で楽しむということの繰り返しだと思いますよ。ただ、次の人もみたいと思ってもらえるように、嫌な空気を作らないことを意識して、きれいな流れになるようにはしています。あまりとらわれすぎず、ただ後ろの方がやりやすいように、お客さんが最後まで見てもらえるように意識しています。だって、自分たちの出番が終わってすぐにお客さんが帰ってしまったらやっぱり嫌じゃないですか。


ree


プロのマジシャンとは


——マジシャンにおける一人前の基準はありますか。


逆に皆さんはどう思われますか。全員に聞きますからね(笑)。


——どんなにひどい失敗を本番中でしても、それを立て直す力が必要だと思います。(後藤)

——沈黙を作らないことだと思います。(寺岬)

——師匠についたら、マジシャンとして認められると思います。(藤崎)

——クロースアップ・マジックを趣味で幼い頃からしており、ダンスも自分はやっています。そこからの気づきとして、結局エンターテイメントは、何ができるかではなく、目の前にいるお客さんがいかに満足できるか、驚いてくれるかが重要なのかなと思っています。(吉原)

——私も自分がやっていることの基準から考えたのですが、人を魅了することができるようになることが大切だと思います。(深作)


みなさん、ありがとうございます。これは道徳のようなものなので全員が正解であり、一方で全員不正解でもあるんですよ。今、出してくれたことを基準にプロだと考えてもいいと思います。みなさんの回答から、共感するものがありました。


僕は「ステージ上で余裕をもって打ち合わせができること、お客さんに目を配れること」が基準だと考えています。お客さんの目がみられなかったら、そのショーはただの独りよがりなものになってしまいます。あえてそういう風にすることもありますが、お客さんを意識しないのなら、やる意味がありません。誰のためでもなく、自分のためにやるなら鏡の前でマジックをすればいいですから。お客さんに楽しんでもらい、無礼がないようにマジックを提供すること、それが我々の仕事です。この考えは変わるかもしれませんが、今はそう考えています。


——ほかに一人前の基準として思い浮かぶものはありますか。


それだけで生活していけるかどうかも一人前であることの条件に入ってきそうですね。準備をしていなくても、その場ですぐに披露できて、お客さんに楽しんでもらえることができるのかという点も重要だと思います。


——実際に何もない状態でショーをされたことはありますか。


本番直前に、衣装だけ着替えて、やりながらセッティングしたことがあります。本当はだめですけどね。山上兄弟は必要な衣装さえあれば、何も準備されなくても、やりきります。


——先述した『マジックの心理トリック』では、テレビのマジックはカメラマンさんと綿密に打ち合わせをしないと大失敗や事故が起きかねないということが書かれていました。テレビ出演のとき、打ち合わせはどのくらい時間をかけられていますか。


僕たちの場合、はじめての場所やテレビでも、打ち合わせなどにあまり時間をかけません。立ち位置を確認しながら、「ここから撮らないでください、ここならいいですよ」とお願いをするぐらいです。あとはマネージャーが横に来るので、音楽をかけるタイミングの要望をするとかですかね。


——では、リハーサルはほとんどしないということですか。


はい。リハーサルをしないので、営業も行ったらすぐにできます。僕たちはアマチュアではないので、そんなことをしなくてもパッと行ってできなきゃ仕事にならないと思っています。だから、短い打ち合わせしかしません。あとはマジシャン同士の打ち合わせですね。ネタがかぶらないように、事前に「今日こういうものをやりますよ」とか、そういう話をしたりはします。



佳之介さんについて


——俳優のお仕事もされていますが、マジシャンとしてのお仕事でお芝居の経験が役立つことはありますか?

 

お芝居をするようになってマジックの魅せ方の意識が大きく変わったと思います。一つの手ぶりでも意味を持たせるようになりました。お芝居ではセリフをいうとき、セリフのどこの部分に重きを置くかでお客さんが理解する意味がすごく変わってきますよね。


これはマジックにおいても同じことがいえます。例えば机を浮かせるマジックがありますが、机が勝手に浮くのか、自分が操るから浮いていているようにみえるのかでは、お客さんが面白いと思う度合いが非常に変わってくると思います。人のマジックをみていても、この重きの置き方で上手いか下手かですぐにわかってしまいます。マジックをとおして、いかに魔法使いとしての演技ができているかを考えるようになりました。


——お芝居をするときのテクニックが、マジックでもたくさん応用されているということですね。


マジックをしたあとのポーズに関しても、ただポーズをするだけだったら子どもでもできます。自分たちはいかに内側にある「自分たちをみてください」という気持ちをみせれるのかということが重要だと思っています。


また、マジックでお客さんの目線の誘導をするときも、お芝居と同様で、お客さんにどこに集中してほしいかということをよく考えています。カードを消すにしても、お客さんは手元のカードに集中すると思います。だから手や腕をどのように動かすのかということまで意識して、どうしたらより不思議にみせられるかということを深く考えます。これも演技と通じる部分があります。


——幼少期からお仕事をされていますが、この道で生きていくと決めたタイミングはありましたか?


中学3年生のころから高校生にかけて強く意識するようになったと思います。小さいころは何をしてもチヤホヤされて、正直仕事をしているという意識もなく遊んでいるという感覚が強かったですが、大きくなるとどうしても周りからの興味が薄れてきます。今まで頼まれてやっていた仕事が、自分たちからやらせて下さいと頼んでも断られるようになりました。大人ってこんなにも手のひらを返すのかということを実感しました。そのときに絶対に見返したいと思うようになり、仕事を頑張ろう、この道で生きていこうと強く思うようになりました。


——今までお話を聞いていて、佳之介さんは自身のことを非常に客観視しているなと感じました。そのようになられたタイミングも仕事と意識されたときと同じでしたか。


それは幼少期からそうだったと思います。母がすごくはっきりとした人なので、仕事をはじめてからずっと、よくないときはよくないといってくれました。母の影響で自分たちのマジックがどうみられているのかということを自然に考えるようになったと思いますね。常にみてくれる人がいるというのはとても大切なことでした。でもより客観視を意識するようになったのは高校生のときに出演した舞台の演出家との出会いだと思います。


——その舞台経験から、佳之介さんはどのような影響を受けたのでしょうか。


その演出家に出会って、僕も演出をしたいとも思うようになりました。僕は彼女に「マスターベーションするように演技をするな」と言われました。女性にいわれたことも相まって、非常に衝撃的でした。そのときに、自分がやろうとしていた演技と見え方に違いがあることがわかりました。つまり、周りが見えていない自分よがりの演技をしていたことに気付かされました。これがきっかけで自分のみられ方についてより考えるようになったと思います。


——お父様の北見伸さんから直接教えてもらい、受け継いだ芸などはありますか?


僕は芸とは「見て盗むもの」で、教えてもらうのは恥だと思っています。だからほとんどないですね。見て学べるなら見ればいいので、手にとって指導してもらうということは基本的になかったです。


——では「見て盗んだもの」はどういうものですか


パフォーマンスの構成の仕方です。もし30分あったらそのなかでマジックをどう出していくかということを今でも学んでいます。喋りもそうですが、マジックにおいて「間」は、面白さを決める非常に大切なもので、不思議さが間によって大きく変わってきます。父や父の師匠である北見マキ先生は、間の使い方がすごく上手なので、彼らのパフォーマンスを参考にしている部分はすごく大きいです。


——最後に今後の目標やビジョンについてお聞きしたいです。


それぞれの場所で目標は異なるのですが、まず舞台のお仕事ではミュージカルに出演したいと思っています。帝国劇場で上演されているような作品にでたいです。声のお仕事では、声優をやりたいと思うきっかけになった山寺宏一さんのようになりたいです。アニメをみていると「絶対いるよねこいつ」みたいな主役の近くに必ずいるポジションを目標にしています。父が海外の映画やドラマが好きでよくみていて、そこに自分の声が登場したら面白いと思うので、吹き替えのお仕事もしてみたいですね。マジックに関しては、1日だけでなく、長い公演を打てるようになりたいです。あと、ロングラン公演を日本以外でもできるようにしたいですね。


ree


インタビュー後記


山上兄弟がデビューしてから20年ということで、こんなにも長く奇術師として活動されている事は裏で相当な努力を重ねているのだろうなと感じていましたが、その努力が想像を超えていました。私が取材をした中で特に印象に残っていたのは、しゃべりがうまくなるという点で話されていた常にアンテナを張って頭を使っているという所です。私達は何も考えずに話すことはできるけれども、喋りのプロは頭を使いながらも無意識のうちに、相手が一番気持ち良く話せる空間をつくっているとインタビューを通して実感しました。一番痺れたのが、自分たちはプロだからその場ですぐマジックを披露できなければ、仕事にならないと仰っていたところです。プロとアマチュアの境界線が曖昧である世界と仰っていられましたが、特に日本では芸術全般がそうであるといえると思います。そこで自分が如何にプロで活動しているのかということを示す。どんな状態でもマジックを披露できると言い切れる精神にプロとしてのプライドを感じて、地道な努力の積み重ねがあってこそ自分を信じることが出来るのだと思いました。(深作)


インタビューを通して、ご自身を常に客観視した佳之介さんの強いプロ意識を感じました。お客さんとの距離感の掴み方やフリートークのお話では、現在のステージでの華のあるトークは、長い芸歴の中で、試行錯誤されながらストイックに培われてきたことを知り、話術は慣れでもあり、頭脳を使う部分であることを実感しました。どのようなお客さんが来るかわからない状況で、毎回お客さんに合わせた魅せかたを臨機応変に変えられるというお話も大変興味深く、たくさんのステージの構成を考えてきたからこそなせる技だと思いました。またマジックにおける「間」の大切さについてもお話し頂き、改めて「間」はすべての芸能において上演の質に大きく影響するものだと再確認することができました。寄席で山上兄弟のパフォーマンスをみたさいに、お二人の圧倒的キラキラオーラを目の当たりにし、目を合わせてインタビューをしっかり行えるかすごく緊張していました(笑)。けれど一つひとつの質問に親身に答えて下さる佳之介さんにメンバー一同が次第に引き込まれました。お忙しいなか予定時間以上にお話をお聞かせ頂けたこと、多大な感謝を申し上げます。(藤崎)


マジック(イリュージョン)には、テクニック以外にも重要な要素がたくさんあり、それらひとつひとつを山上さんが大切にしていることが伝わったインタビューでした。何より「山上兄弟」という、パートナーであり兄弟であるからこそ成し得る、息の合わせ方やパフォーマンスのお話はとても興味深いものでした。マジックの「技」を伝承するというのは、前述したように単なるマジックの技術(いわゆる種)だけでなく、それらの魅せ方、話し方など、多岐にわたり、それらをすべて合わせてはじめて「技の伝承」と言えるのだろうなと考えさせられました。自分自身の趣味がクロースアップマジックということもあり、今回プロマジシャンの山上さんのお話しは、勉強になることばかりで、貴重な機会でした。(吉原)


マジックをする山上兄弟がなぜこんなにもキラキラとしており、圧倒的オーラが放たれているのか気になっており、それはお二人が生まれ持ったものなのかもしれないとインタビュー前は思っていました。しかしインタビューをする中で、目の前の人を自分達に惹き込むための心がけやそれを成すための努力、裏での兄弟ならではの連携やプロとしての覚悟、プライドがあることを知ることができました。マジックを見るためではなく、自分たちのマジックを見るために客に来てもらうために山上兄弟らしさを追求しているとおっしゃっていたのが特に印象的で、マジックと両立しながら山上兄弟ならではの面白さやかっこよさを限られた時間で客に印象づけるという目に見えない勝負をずっとお二人はされてきたのかと思うと、並大抵ではないことが伝わりました。また、人に見てもらうには自分をよく知らなくてはいけないという言葉ははっとするものがありました。山上兄弟のこれからのご活躍を心からお祈りしています。(後藤)


佳之介さんの「毎週木曜、深夜2時頃から朝7時まで一人で話し続ける練習をした」という言葉が私の中で大変強く印象に残っています。今まで、舞台に立つお仕事だと話術は場数によって自然に身についていくものなのだろうと考えていました。ですが、このエピソードから「山上兄弟がプロとしてどう在るべきか」佳之介さんがどれほど考えているかが伝わってきました。これまでに、自分で理想像を思い浮かべても頭の中止まりで行動に移せずにうずうずし続けることが何度もあったため、今に至るまでに個人での地道な努力があった事に心打たれました。また、インタビューの前に実際寄席に足を運んで山上兄弟さんのマジックを鑑賞し、面白さ、楽しさ、華やかさを体験させてもらいました。それは、私たちは彼らの試行錯誤のおいしい所取りをさせて頂いていたのだと振り返ってみて実感しました。今回は直接インタビューという大変貴重な経験をさせていただき、本当にありがとうございました。(寺岬)




コメント


  • Instagram
  • Twitter

©2020 by 立教大学映像身体学科芸能研究ゼミ。Wix.com で作成されました。

bottom of page