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  • 執筆者の写真ゼミ 横山

バレエピアニストのわざ

更新日:2023年4月17日

蛭崎あゆみインタビュー


新野遥南


 

今回私は、東京都・田町にあるオープンクラス制度のバレエスタジオ、スタジオアーキタンツにて、日本で唯一の国立劇場所属のバレエ団、新国立劇場バレエ団で専属ピアニストを務める蛭崎あゆみさんのクラスを受講し、その後、バレエピアニストの演奏法とわざの習得法についてインタビューしました。


 

蛭崎あゆみ

 日本のバレエピアニスト。武蔵野音楽大学ピアノ科を卒業後、バレエピアノを学び、単身渡仏。2004年パリオペラ座バレエピアニストコンクール入賞。その後、パリでバレエピアニストとして活躍。2006年、文化庁在外研修員に選出されウィーン国立オペラ座にて学ぶ。現在は新国立劇場バレエ団専属ピアニストのほか、スターダンサーズバレエ団など日本の数々のバレエ団、オープンクラスにて、レッスンピアニスト、リハーサルピアニストとして活躍。その他 、オリジナルレッスンCDの作成、バレエ教師に向けたワークショップの開催や、音楽大学講師など、幅広く日本のバレエシーンで活躍している。その他、映画やテレビへの楽曲提供も行っている。




演奏のわざについて


ー演奏の際、ダンサーのどんなところを見て合わせていますか?


バレエピアニストには、クラスを弾くクラスピアニストという仕事と、上演作品のリハーサルを弾くリハーサルピアニストという仕事の2種類の仕事があり、そのどちらかによっても全く違う感じになります。


ー実際に蛭崎さんのクラスを受けてみて、速い動きの時は、ダンサーに合わせるというよりも一定のテンポを保つ意識なのかなと感じました。クラスの中でも、動きの種類によって、弾き方は変わるのですか。


演奏のときどこを見て合わせているかでいえば、まず、クラスはテンポを一定に保つことがすごく大事だから、自分がこれって決めたら、もうあんまり見る必要はない。特に、おっしゃるように速い動き、例えばバー・レッスンのファーストジュッテとかは、メトロームのように刻むことがすごく大事です。なので、このテンポで大丈夫だなと思ったら、もうあとはダンサーは見ない。


逆に、ゆっくりの曲を弾く時には、メトロームというよりも、フレーズの意識がとても大事。ゆっくりとした歌を歌うときのように、一度ブレスをしてから、フレーズが終わるまでの長い距離がすごく大切です。たとえば、そのフレーズと、ポールドブラ(上体を前に曲げる動作)からなんとかしてここまで(最初のポジション)っていう動きのフレーズがピッタリだと、すごく合っているようにダンサーは感じる。そういう曲を弾くために、まずは選曲するということかな。どんなにダンサーを見ていても、選んだ曲がそのフレーズ感とマッチしていないとダンサー側は踊るのがすごく難しいので、まずは選曲というところですね。


──見るときには体のどのあたりを見ますか?


具体的に足とか手を見ているというよりも、この辺(顔の横の広い範囲)で見ています。だから、見てるというよりも感じてるというのかな。なんとなくダンサーたちが「忙しそうにしているな」とか「物足りなさそうにしているな」ということを感じながら弾いています。


なんで足とか手とかを見ないかというと、もちろん見てはいるんだけれども、点で見ると合わせられないから。私たちは、点ではなくて線で音楽を作っているので、「ほんとはここでこの音がダンサーのこれと合ってなきゃけない」って思ったときに、突然その点を他の位置にずらすことはできないので、その流れの中で、「遅れてそうだな、じゃあ次こういう風に持っていこうかな」っていうふうに調整するしかないのね。何よりも、合わせようとして音楽性を崩さないっていうところが大きいです。


──音楽性についてもう少しお聞かせ下さい。


私は、新国立劇場では、ダンサーたちが本番の舞台の上に立った時にベストになるようなクラスをするという意識でやってます。クラスが終わったところで完結ではなくて、このクラスがリハに繋がり、このリハが本番に繋がるという稽古をクラスでしないといけない。だから、音楽性を大事にするということは、クラスの中からもうすでに始めているかな。






クラスは、ご存じの通りに、DJのようにその場で曲を出すのだけれど、リハーサルというのは、決められた曲を決められたように弾きます。それで、一曲の中でずっと同じテンポではなく、抑揚が必ずあるよね。そうなると、私ひとりがダンサーを見ていればよいというわけでなくて、本番に指揮を振る指揮者との兼ね合いを見たりというのが大切になってきます。


例えばダンサーが「ここちょっと速いんですけど…もうちょっと遅くしてもらえませんか」って言ってきたとしても、曲想的に、ゆっくりにすると踊りは追いつくけれども、音楽としてはおかしいということがあります。じゃあどうしてこうというときに、「いきなり遅くするのはおかしいから、もっと前からテンポを少し落として、ずっと同じテンポでいかせて」ってこちらからアイディアを出したり。音楽的におかしくなく、かつ、ダンサーも綺麗に見える合わせ方がないかというのを探りますね。



繰り返しの必要性


ーバレエピアニストは現場での繰り返しの練習が必要だとお聞きしました。クラスの中で適切な曲を選曲をするのにも、ダンサーたちへアイディアを提案していくのにも、やはり、繰り返し弾く事が大事になりますか?


繰り返し弾くというのは、「ダンサーと一緒に弾くことに慣れる」という意味でもあり、「場数を踏んで慣れる」ということでもあります。私たちの仕事は、特にリハーサルでは、ダンサーとの信頼関係がすごく大事で、ただピアノが上手いだけじゃだめ。だから一緒に何度も繰り返すんです。


たとえば、ダンサーにとって、「ずっと一緒にリハーサルを重ねてきて私のことを全てわかっている」と思えるような人がピアノを弾くことが大事です。そうすれば、このピアニストの奏でる曲なら大丈夫という安心感のもとにダンサーたちは踊れる。だからこそ、たとえそのピアニストの演奏が、曲のはじめにいつもより速いなって思うようなものだったとしても、「でもこの人が弾いてるテンポなら踊れるはずだ」って信じて踊れてしまうということがすごくよくある。


これは、ピアニストだけでなく指揮者でもあり得る話です。本番まで、メトロームで練習してきた指揮者が突然やってきて、「このテンポで振ればいいんでしょ」で振ったとしてもいい演奏はできない。「この指揮者なら、このピアニストなら、稽古場でずっと一緒に練習してきたから、この人たちの演奏で踊れないわけはない」とダンサーたちに思わせることが良い効果を生むということは、科学的な根拠はわからないけれども、ここ何十年仕事をしてきて身に染みて感じていることです。音楽がいつもより少し速かったけれど、ギリギリのところで踊りきれたというようなとき、作品がすごくエキサイティングに見える。これこそが、生の舞台の面白さだと思います。


毎日全く同じ演奏でリハーサルしたいのなら、私たちが生演奏でやる必要はありません。私たちは機械ではないので、毎日同じテンポで、同じ抑揚で弾くことはできません。本番は特に、ダンサーはもちろん、演奏する側も緊張しているので、なにが起こるかわからない。ただ、練習中にやってきたことが、舞台の上ですごくエキサイティングに見えることが生の舞台の面白さだなと思います。



練習法について


ー現在の蛭崎さんの練習について教えて下さい。


リハーサルに関して言えば、本当にただ勉強するのみ。オーケストラの楽譜とわたしたちのピアノ譜を照らし合わせながら練習します。今練習している作品は新制作で、これまでの『ジゼル』から新しく振り付けを変えているところがあります。だから、「ジゼルが出てくるところから音をください」と言われても、ジゼルが出てくるところがいままでの伝統的なバージョンとは違うタイミングかもしれない。そのため、「曲のこの場面がアラベスクだ」とか、「この部分がグランジュッテだ」とかいうことを、ぱっと楽譜を見てわかるように予習しておくことが大事になります。





新国立劇場バレエ団公演『ジゼル』のリハーサルで実際に使用中の楽譜(筆者撮影)




ー振り付けも把握しておくのですか?


振りももちろん把握しています。楽譜には「スカート触る」「バチルダ立ち上がる」「私は踊るのが好きって言ってる」など、動きも細かく書き込んでいます。「ここから音をください」って言われたときに、「あのページのあそこから」とすぐわかるようにするため。

さらに、ここから踊るためには、どこから弾くのがいいのかを瞬時に判断する必要があります。とにかく短い時間で、効率よくリハーサルを進めるためです。弾き初めを考えるのも、私たちの面白い仕事のうちの一つ。こういうのは、ベテランの人ほどよくわかります。


ーそれも場数が関係してきますか??


そうですね。やはり、やっていかないとできるようにはならない。私も駆け出しのころは、「それじゃ出れないんですけど」とよく言われていました。クラスでは、私がダンサーにとって踊りやすい曲を選んで弾くんだけれど、作品では、ダンサーが踊りやすいように弾いてると音楽として成り立たないことがあるので、そこには気を付けて弾いています。


ー合わせるというよりもリードしていくという感じですか?


そうですね。新人のピアニストほど、ダンサーから「ここちょっと合わせてください」と言われて、「あ、はい!」とリクエストに答えてしまうことが多いです。それでも、私のように年を重ねてくると、「そこは合わせられないので、違うやり方を考えよう」とはっきり言えるようになります。そういう意味でも、経験を積んでいくことが強みになっていきますね。


ーバレエピアニストとしての経験はどのように積んでいきましたか?


ほとんどのバレエピアニストは、クラスピアニストから始めます。そして、クラスピアニストが上手になると、バレエ団などから声がかかり、リハーサルを弾くようになることもあります。最初からリハーサルピアニストになることはまずありません。なぜかというと、ステップの名前を覚える必要があるから。まず、クラスの中でステップの名前を覚え、「このステップはどれくらい時間がかかる」とか「このステップはこのくらいの速さで弾くとちょうどいい」とかを覚えていきます。


ークラスピアニストのための練習はどのようなものですか?


クラスピアニストを始めたころは、とにかく曲集めをしていました。どれだけレパートリーがあっても足りないので、ひたすらレッスンで使える曲を集める作業をしていました。昔通っていたバレエ教室で使っていた、レッスンテープの中の曲や自分が好きなレッスンピアニストの曲を楽譜に起こしたりしていました。楽譜に起こすことで、曲の構成がわかるので、自分が素敵と思う曲がどのような作りをしているのかを独学で勉強しました。


ー蛭崎さんはどのようにして、ご自身のスタイルを確立していったのですか?


私のクラスは、ほとんど即興で弾いています。私の場合は、その場で先生が出した振り付けからインスピレーションをもらい、曲を作っています。そういう場合は、クラスのための練習は特に行いません。バレエピアニストは、みんなそれぞれ違うやり方をしていて、即興で弾く人もいれば、すべて楽譜を見て弾く人もいます。決して、どちらが良いとか悪いとかはありません。ただ、私は最近になって、動きにピッタリ合った曲を弾くのが楽なので、即興をするようになりました。


ーそれはいつからか変わったのですか?


実は、クラスピアニストをやり始めた大学卒業したてのころは、即興は全くできませんでした。その頃は、常に分厚い楽譜の束を持ち歩いて、レッスン中はずっと楽譜を構えておいて、先生が出してきた振りに合う曲を楽譜を必死にめくって急いで探して、「これだ!」みたいな感じで弾いていました(笑)。それが段々と慣れてきて、楽譜を持ち歩かなくとも弾けるようになりました。


ー即興は自然とできるようになるものなのですか?


その質問は本当によく聞かれます。私も実際、大学生のころは、即興が全くできませんでした。きっかけになったのは、クラスをしていた先生が、バーレッスンの最後に、「グランバットマンを3回した後にポールドブラをします」と言ってきたとき。「激しい動きの後にゆっくりなポールドブラの曲なんてファイルにない…どうしよう」となったときに、生まれて初めて即興をしました。本当にダサい即興で、いまでも忘れられないくらいです(笑)。


それを機に即興するようになりましたが、私の場合は、現場で恥をかかない限り即興はできるようにはなりませんでした。自宅で、先生の振り付けもないところで、突然なにか即興しようとしても絶対できない。ある意味、極限状態に身を置いてやると良い即興ができるようになると思います。


ー以前のある対談記事で、ウィーンのバレエ団ダンサーが求めてくる「一定」に苦労したというお話がありました。海外のダンサーと日本人ダンサーとで、違いはありますか?それぞれの特徴に合わせた弾き方はあるのでしょうか?


特に弾き分けはありません。その記事で、私が「彼らの言う一定が一定じゃない」と言った中の彼らは、国に関係なく、ダンサー全般を指していたのだと思います。ダンサーが求めてくる一定と弾いている側の一定には誤解が生まれやすいです。なぜなら、ダンサーたちは、私たちがピアノを弾いているときに行っている、”ちょっとしたため”や少し速くしたり遅くしたりしていることに気付いてないから。ダンサーたちは、「普通に弾いてくれればいい」と言ってくるけれど、その時点で、すでに操作して弾いているということが多くあります。


さらに、何を持って「普通」というのかは人によって違います。ダンサーたちは、私たち演奏する側が、音楽を、なんの操作もせずに棒弾きしていると思っている誤解があります。その誤解が、踊り手と演奏の側との間で「一定」に対する違いを生んでいるのだと思います。記事の中では、説明がすこし足りなかったかもしれないです。


ー”ちょっとしたため”などはどのように身に付けていくのですか?


先輩から習ったり、本番で指揮を振る指揮者から習ったりします。私たちは、あくまでも音楽家であることを忘れてはいけません。そのため、ダンサーからのリクエストだけを飲まないように気を付けています。もしも、ダンサーからしか話を聞いていなければ、どう弾くのが良いか分からなくなってしまいます。そんなとき、オーケストラ全体を把握している指揮者に聞くと、「それは音楽的にいうとつまりこういうこと」と教えてくれます。それによって、音楽的に上手に弾けるようになることが多くあります。

指導法について


ー「先輩方から習う」とのことでしたが、具体的にどのような指導を受けますか?


指導という指導は受けません。先輩が、自分が弾いている現場を見に来て、演奏を聞いていてくれて、「あそこはこうした方がよかった」と教えてもらうことが多いです。逆に、自分が若いころは、先輩が弾いているところを見に行って「なるほど。あそこはああやって弾くのか」と学んでいました。この世界は、芸を盗んで覚えるという世界なので、実際に目の前で弾いている人と踊っている人たちを直に見て学ぶのが、一番成長できる場だと感じます。


ー現在、蛭崎さんご自身も、バレエピアニストを目指している若者への指導を行っているとお聞きしました。どのような指導を行っていますか?


正直、現場と離れたところで個人的なレッスンをしても、生徒の成長はあまり期待できません。レッスンを数回して基礎ができたら、あとは現場で自分を試して、トレーニングしていくしかないと思います。教え子が弾いてるのに合わせて自分が動いてみることができるのは、バレエをやってて良かったと思う点です。


ーお弟子さんがつくこともあるのですか?


今はいないけれど、いた時期もあります。もちろん、一対一でレッスンを頼まれれば見てあげることはできます。ただ、そのレッスンは何回してもあまり意味はないですね。なぜなら、見てるだけだとわからないこともあるから。例えば、アダジオクラス(男性と組んで踊る練習)も、見てるだけだと簡単そうなのにいざやってみると難しい、みたいに。だからこそ、現場で弾くようになると確実に新たな質問が出てくるから、そしたら聞きに来て、というふうな体制を取っています。


ー現在、バレエピアニストオーデションの審査も行っているとお聞きしました。オーデションでは、どんなところを見ていますか?


レッスンピアノについていえば、センスがあるか。リハーサルピアノについて言えば、曲の理解、演奏テクニック、オーケストラの様に弾けるか、などを見ます。オーケストラのように弾けるかというのは、例えばタイミングの一例を挙げるとすれば、男性バリエーションの最後の終わらせ方が分かりやすいと思います。だいたい、男性バリエーションの最後は見せ場なので、高く飛んだり、たくさん回ったりします。それでも、最後のポーズを、音楽の最後の一音に合わせなければならない。そのときに、曲によっては最後の一音の直前で待つのはNG。なぜなら、音楽的におかしいし、オーケストラもそのようには演奏しないから。ピアニスト一人でできることと、オーケストラ全員が指揮者のもとでできることの違いを理解できているかどうかは大事なことだと思います。そのことを理解していれば、おのずと演奏は自然なものになります。オーデションでは、指揮者はいませんが、その点を十分に分かって弾いているかどうかを見ています。



バレエピアニストにおける上手さとは


ー蛭崎さんご自身も、学生時代にピアノと並行してバレエを習っていらっしゃったとお聞きしました。ご自身のバレエ経験が、バレエピアニストとして役に立っていると感じることはありますか?


私がバレエをやっていてよかったなと思うのは、「この曲わくわくするな」とか「なんだか踊りたくなるな」というフィーリングがわかることと、実際にこの曲でこのアンシェヌマンが出来るかどうかを確かめられることですね。


ー蛭崎さんの思う上手なバレエピアニストとはどんなピアニストですか?


私の思う上手なピアニストは、ダンサーたちを引っ張っていく力のあるピアニストです。ただ、ダンサーが好きなピアニスト、ダンサーにとっての上手なピアニストは、圧倒的に、自分を綺麗に見せてくれるピアニスト。それがたとえ音楽的に少し不自然であっても、ポーズを決めるタイミングでちょうど良く、ポーズの音がかかれば、ダンサーたちはいいピアニストと評価します。しかしそれでは、音楽家は踊りの奴隷になってしまうので、音楽性を気にせずにダンサーに合わせることは決してやってはいけないことだと考えています。もちろん、ダンサーが気持ち良く踊れるように最大限努力しますが、「そこは合わせられない。稽古のときからこちらの音楽に合わせる努力をしてみて」というスタンスで、ダンサーたちを引っ張っていくのも私たちの仕事です。


クラスを弾く際のピアニストにとって一番大切だと思うのは、グルーブ感ですね。クラスにしても、リハーサルにしても、どんどん増していくダンサーたちの熱気に合わせられるピアニストが良いピアニストだと思います。もちろん、クラスピアニストの中には、バレエを

踊っていた経験がある人もいれば、踊ったことが全くない人もいます。実際、新国立劇場にも、経験者もいれば未経験者もいます。ただ、過去にバレエを踊っていた人でも、奏でる音楽にダンサーを引っ張るような勢いが全くない人もいれば、反対に、バレエの経験がないにもかかわらずその勢いがすごくある人もいます。そこがまた面白いところです。


ーどんなバレエピアニストを目指していますか?


一番はやはり、ダンサーをリードしていけるピアニスト。ダンサーの要望も聞きつつ、より良い音楽を作っていけるピアニストを目指しています。これは、一緒に仕事をする人にもよります。バレエは装置や衣装、踊り、そして音楽が複合された総合芸術であるり、全ての要素が上質でなければ、上質な総合芸術にならないことを分かっているダンサーであれば、「音楽はそう弾くと素敵に聞こえない」と言うと分かってくれる。だけど、「自分がかっこよく見えれば音楽はどうでもいい」と考えているようなダンサーと仕事をすると音楽を作る側は苦労します。そういう意味で、新国立劇場バレエ団という一流のダンサーたちが揃っている場は、とても仕事がしやすいです。


もちろんバレエ団では、ダンサーを綺麗に見せてあげたい気持ちで弾いています。さらに、指揮者が練習の場に来る、本番一週間程前の通し稽古までの間に、ダンサーと音楽を同時に整えておいてあげるつもりで弾いています。




取材を終えて


今回の蛭崎あゆみさんへの取材を通し、バレエピアニストのわざの習得の難しさを理解するとともに、踊るうえでの音楽性の重要性を感じました。演奏する際の蛭崎さんは、音楽をダンサーの動きに合わせること以前に、バレエが総合芸術であるということを前提に、なによりも音楽性を重視していました。そこから、バレエピアニストという仕事が、バレエ作品を作り上げるために、ダンサーの踊りと音楽家の音楽を繋ぐ架け橋として、なくてはならない存在であるとわかりました。


また、蛭崎さんとお話をしてみて、学生時代から国立バレエ団専属のピアニストになった現在に至るまで決して変わることのない、ダンサーに向き合う熱心な姿勢と音楽に対する強い意志が、今の蛭崎さんがダンサーたちの強い信頼を得ていることに繋がっているのだろうと感じました。また、実際に私も蛭崎さんのクラスを受けてみて、とても楽しく、時間があっという間に感じられました。レッスン中の音楽はどれも、振り付けのイメージを掴みやすく、さらに、踊る側が意識するべき点を意識しやすい曲選びの工夫が込められていると感じました。私自身も一人のダンサーとして、今後はより音楽性を大事にして踊っていきたいと思います。




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