中国武術を日本の身近に
- ゼミ 横山

- 2022年6月7日
- 読了時間: 9分
松島駒樹老師に聞く
福 悠香梨
みなさん、中国武術を見たことがありますか。あまり日本ではメジャーな武術ではないかもしれませんが、名前の通り中国ではとても有名で体育の授業にも取り入れられている武術です。
私は、高校在学時に中国武術部に所属していて、その際にコーチとしてお世話になった松島駒樹さんに2021年8月にインタビューさせていただきました。中国武術という日本ではマイナーな武術を高校生や一般の人に教える際の話や、師匠からのわざの伝承について伺ってきました。この記事を読んで、みなさんにとって中国武術が少し身近な存在になってくださればと思います。

松島 駒樹 老師
飛凰会代表。飛凰会での指導を中心に都内高校でのコーチとしても活躍。日本のみならず台湾や香港での大会でも数々の優秀な成績を収める。
オリンピック
──東京オリンピックで空手が種目になっていましたね。同じ武術家としてどう見られていましたか?
喜友名選手すごかったですね。眼は稲妻って言っていたの覚えていますか?
──ごめんなさい、覚えてないです…(笑)
あれ?目は稲妻、しなやかな身体は弓の如しと指導した覚えがありますよ…でもそれが出ていたでしょう?
──そうですね。とてもは覇気が合って、目から技が出ているかのようでした。武道っていう面で共通するところがあるんですね。
教え方の極意
──高校の部活動はとにかく楽しいが先行していて、特に基本功の時間はチャレンジする感じがあって、それがとても好きでした。私の高校の部活のときのようにチャレンジ感のある練習は私の高校以外の練習でもありますか。
基本功は、ずっとやっている方達も好きで、私自身も大好きです。そうですね、全員見るのは難しいのですが、まず大まかにざっくりな目標をお伝えします。そして怪我に繋がる危ない動きをしていたら、個別に「こうだよ」と直接丁寧に指導したり、柔軟性や筋力が足りていてできると思った方には、実際に目の前で見せたりします。
──実際に見せてもらえるのとても分かりやすかったです!
そう、福さんは見せるとできるんだなって思っていました。でも、見せてもできない人もいるから、そういう人には論理的に伝えます。足が上がるときに腹筋をいれて、戻すときに後ろ側に力を入れてバネみたいにするんだよ、等です。慣れない方には難しい動作ばかりですから理解が追い付かないのは当然です。その場合は、もっとゆっくり丁寧に指導する感じです。
──その違いってどこでわかるのですか?
顔を見て判断します。ピンときていないときは顔が曇っていることが多いです。福さんはわかりやすくて、実際に目の前で見せたときの「おお!っ」という感じが強く、目が輝くときがありました。実は私も同じタイプなのでよくわかります。
──言葉で教えるって難しいですよね。私、ダンスやっているのですが、ダンスも見て覚えるタイプなので言葉でどう教えたらいいんだろうと悩むときもあります。
そういうときは、足の角度や手の位置等を細かく伝えてあげるのが一番いいと思います。相手を想像し、腕を掴むや防御する等の、感覚でやっている部分も言語化することが大切ですね。
──中国武術の基礎練習である中国武術段位性って私の高校でやっていましたか?
二段をやりましたね。あれは基本的な打撃と蹴り技で構成されています。三段になると掴みや、関節技になるので一気に難易度が上がるのでそこまで進めませんでした、あれ、対練(注)やった代でしたっけ?
(注)対練…二人以上で、あらかじめ決めてある武術の攻防動作で構成した套路(型)を行うこと。
──素手対練、私の代もやりました。
あれで関節をひねる動作あったと思うのですが、あの動作は慣れないと難しいのと怪我の恐れもあるので、一に攻撃を躱す、二に相手の手首を掴む、三でゆっくり相手の関節の可動域を感じながら捻る…という手順でお互いが安全に技を理解するところから始めます。怪我予防も勿論ですが、柔軟性や急に動いて相手を困らせない「気配り」の修得の意味もありました。
普通、最初はパンチ等の突きだけから始めるのですが、それだけだとみんな飽きてしまうので、蹴り技を追加して練習のバリエーションを増やしていきます。入口はやはり楽しく、ですね。本当に好きな人は厳しいことしても楽しいですから。今日の練習に来る方達は皆そうですね。
──今日の練習に来られる方は皆、熟練者ですか?
いえいえ。今日は初心者の方も参加されますので少し優しいです。
──それはその人ごとに練習メニューを変えるのですか?
基本は同じだけど、少し簡単にしています。左右ある動作は片方だけとかですね。高校のと
きは両方やったでしょう?
──やりました。でもたしかにいきなり両方やると負担が大きいですよね。そういうのをさりげなくって感じですかね。
本当は熟練者と同じ内容にしたいけど、動作がおぼつかないようでしたら、すっきり終わらせつつも、まだまだ先は長いんだよと感じて頂けるようにしています。
──基本功教えるときと個々人の演武を教えるときで意識することに変化はありますか?
武術は全部基本功の動きの中の延長ですが、練習時間が全部基本功だけだと飽きてしまう方もいらっしゃいます。だから、求めているものはこっちかなって思ったら套路から基本を学んでもらおうと思いました。
高校の部活動は特にそうで、時間が足りなくてまだ基本功でやってない動作ばかりでした。
本来は基本だけで1時間以上やって様々な動作へと進展させますが部活動の限られた時間ではやりきれないので、套路をやりこんで身に着けて頂ければと思っています。でも安全には気を付けてですね。やはり練習の満足度も大事ですからね。
わざの伝承
──私がやっていた飛虹剣って珍しいのでしょうか?調べてもあんまり出てこないのですが…
珍しいです!四川省の賈平老師の飛虹剣は素晴らしく、以前師事していた方が兄弟弟子でした。私も憧れ、アドバイスを受けたり、動画を参考にしてとても研究しました。
──そこから私が教えていただいたわけですね。先生からわざなどの教えを受けるのはだいたい直接が多いですよね?
そうですね。最近はネットの普及で動画で研究してから直接中国に習いに行くケースも増えてきました。
──先生の動きや教え方は先生によって全然違いますよね?
全然違います。福さんみたいに感覚で動ける人もいるし、論理的な人もいます。論理的に指導できる先生は本を出版したり活動の幅が広いです。しっかり深く学びたい方が多い印象があります。
私の場合はスポーツクラブでレッスンを担当している事もあって、運動不足解消やダイエットの為という方もいらっしゃいますし、そこから専門にやってみたいという方も多いです。今では熟練者も多いですが、最初は皆初心者でした。もちろん私も。
──その教えてもらったわざをどのように教え子に繋げていっていますか?
常日頃から練習!とお伝えしています。中国武術では型ではなく套路と言い、「その人の努力の道筋がこの動作に表れていますよ」という意味合いもあるそうです。武術の練習時間以外にも、色々なスポーツ競技や日本の武道、家庭や仕事等からも己の武術の発展ができます。套路を外れすぎるのは良くないですが、「その人の努力の道が見えるといいね」というのが私の武術の好きなところでもあります。厳しい練習を積むと、見た目も心も強くなり人間力も高まりますので、そこから更に武術の輪が広がればいいなと思います。
あと、歴史的なことになりますが、中国大陸と台湾は色々問題を抱えていますね。文化大革命のときに、武術の達人は殺されるか他国へ亡命してしまいました。そこで中国大陸は意外と失っているところがあります。だから、中国にまだ残っているのもあるし、台湾やヨーロッパに伝わっているのもあります。日本人は両方学ぶことができるんですよ。私の兄弟弟子は両方から学んで実戦的にも表現的にも上手です。中国では途絶えてしまったものを台湾や日本で学びつつ、中国で現地の方達とのコミュニケーションや食事を楽しみながら練習したりもしています。
──土地で学べる武術の色が違うんですね。
中国武術の立ち位置
──中国武術は武術だけど、演武と言う点から舞踊っぽいなって思っていたのですが、側面としてはどっちになると考えていますか?
求めるものが変わってくるのですが、高校でやっていたのは、かっこよさや美しさを求め
る健康武術の方です。武術や武道は、打撃とか攻防がでてきて、多少のトレーニングをし
ていないと危ないから手順がわかっている対練はできるけど、自由にやるのは難しいですよ
ね。自由にやるのも練習過程としては、一人でやる、二人で約束して組んでやる、こう来
るときはこうよけるのだなっていうのを練習した上で自由にやるっていう流れです。でも
危ないからこれをやるのは上達してからですね。一人でコツコツやるのが好きな人もいるし、対練が好きな人もいるし、組手系が好きな人もいるし、練習を重ねていくうちに自然と分かれていきます。
高校でやっていたのは表演で「かっこいいじゃん!」と見せる感じです。かっこいいは美しい、美しいは隙がないです。
稽古見学での感想や気づき
インタビュー後、稽古見学をさせていただきました。お教室には経験者の方と始めたばかりの初心者の方が半分ずついるような環境でした。ビシッとした空気感があるわけではなく話しながらラフに行えるような環境で、経験者が初心者に対して教え合えるような温かい雰囲気で、私にもたくさん話かけてくださりました。「まずは、練習は楽しくなくちゃ」というインタビューで伺ったことに通ずると感じました。
人が集まってくると基本功の練習に入っていくのですが、その人のレベルに合わせて行っていたり、わかっていなさそうな人には論理的に動きを一から教えていました。また、できる人にはもっと細やかなアドバイスを送り、その様子を見ている初心者もそこから学んでいっているようにも思え、レベルが違う生徒が小規模に集まっている空間は一番成長がしやすいのではと感じました。
個々人の演武の練習になると、先生と一緒に演武を行い、やりながら先生の動きを見て学ぶ練習が主流になっていました。今、どこにアクセントを入れるのか、どこに意識をおくべきなのか想像しやすいようにカウントやオノマトペを使いながらの練習でした。
人によって得意不得意があるので、ファーストリアクションをしっかり見ることに重点を置いているように感じ、体の使い方がわかっていない場合は物を使って体の動きを制限させて正解の動きを教えたり、角度が分かっていない場合は実際に体を動かしたり、流れがよくわかっていない場合は1つ前の動きが丁寧に教えたりと人によって手順を変えて教えている様子が伺えました。
編集後記
高校時にお世話になった松島さんに教え方についてお聞きすると、当時私自身はあまり意識していなかったところに教え方の極意があって、そのおかげで楽しく部活動をすることができていたと気づきました。松島さんの教え方は人を楽しませるコツが詰まった練習だと感じました。中国武術とはなんだろう、とふと興味を持った人に対して一発で魅力を感じさせる極意がさりげなく詰まっていました。お話を伺い、稽古を見学させていただき、自分自身もまた中国武術がやりたくてウズウズしたのでまた練習にお邪魔させていただこうかと思います。

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