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  • 執筆者の写真ゼミ 横山

宝塚花組公演『The Fascination!』におけるオマージュについて

                                中村 萌乃


はじめに


先日宝塚歌劇団花組公演『元禄バロックロック』『The Fascination(ザ ファシネイション)!』を観劇しました。この公演は花組新トップコンビ、柚香光と星風まどかのお披露目公演でもあり、花組誕生100周年を祝う記念すべき公演であります。芝居の『元禄バロックロック』は、演出家・谷貴矢の宝塚大劇場デビュー作として宝塚歌劇に新しい風を吹かせました。一方ショーの『The Fascination!』は宝塚を代表するショー演出家中村一徳の作品です。花組100周年を祝う華やかさ・クラシカルさと花組生全員の顔が見える演出は、中村の演出の特徴的な部分でもあり、宝塚歌劇への愛故であると思われます。全く色の違う芝居とショーだからこそ、花組100周年を祝う公演として華やかさを増しているように感じました。


芝居・ショーともに興味深い作品でしたが、今回は『The Fascination!』の第6章Aオマージュ①(楽曲:シェイキング・ザ・ブルーズ・アウェイ)(以下A)、第6章Bオマージュ②(ラプソディ・イン・ブルー)(以下B)について考察していきます。この場面は1988年に上演された小原弘稔演出の『フォーエバー!タカラヅカ』より「ピアノ・ファンタジィ」をオマージュした場面です。この場面について書く理由としては、オリジナルの『フォーエバー!タカラヅカ』と比較しながら考察することで、宝塚歌劇の伝統の受け継がれ方を見直す事ができると考えたためです。今回は振付と舞台装置の2点について考察します。

『フォーエバー!タカラヅカ』より「ピアノ・ファンタジィ」


振付


オリジナルの作品と比べ、振付が大幅に変更された部分はないように感じました。それもそのはず、今回Aの振付は当時を知っているAYAKOが、Bはオリジナルに出演していた御織ゆみ乃だからでしょう。この2人が振付だけではなく、当時の様子も伝えられることが、オマージュとして舞台が成り立つ要因の一つだと考えられます。


そのような中でもオリジナルとイメージが違うと感じた部分があります。それはBの中盤、男役と娘役のリフトが続く振付です。オリジナルの方では音一つ一つに振りがついているのに対し、『The Fascination!』では間を大切にするような印象を受けました。オリジナルで振付を担当したロジャー・ミナミは公演座談会で、「この曲は音自体がしっかり決まっているので、それを音通りに保って振りを付けるのが大変」だと述べています(『歌劇』1988年10月号)。ここからロジャーの振付の音に対するこだわりが窺えるでしょう。振り数が多い分、オリジナルの方が難しそうに見え、当時のファンからすれば今回の振付に物足りなさを覚えるかもしれません。しかしながら私は、今回の振付の静止の長さは、前後の振りとの間により緩急をつけることになってており、バランスが良いと感じました。


またBの場面の衣装はオリジナルから変わらず、男役が白の燕尾服、娘役が黒の燕尾服のダルマとなっています。ジャンプや縦横移動の振りも多く、動く度に燕尾が揺れる美しさを見る事ができるのも見どころです。『The Fascination!』に出演する水美舞斗は公演座談会で「白燕尾は基礎をしっかりしなければ特に粗が目立ってしまう」と述べ(『歌劇』2021年11月号)、オリジナルに出演していた瀬川佳英は楽屋取材で「踊りの流れが綺麗じゃないと燕尾のシッポを汚しちゃう」と述べていました(『歌劇』1988年11月号)。この2人の話から、宝塚の生徒のこだわりは受け継がれているものなのだと、改めて100年の重みとこの場面の重要性を感じます。



舞台装置


この作品の装置を担当しているのは木戸真梨乃です。彼女は公演プログラムのインタビューの中で、中村一徳から「関谷敏昭先生の“関谷ワールド”を受け継いだものであってほしい」というリクエストを受けたと述べています。関谷は『フォーエバー!タカラヅカ』でも舞台装置を担当していました。そのような理由もあってか、オリジナルと基本的には同じ舞台装置が用いられています。一方で新たな形が取られている部分もありました。


特に大きく印象を変えたのは、Aでロケットダンサーが舞台上に全員揃ったタイミングでTheFascination!のタイトルロゴの装置が天井から降りてくるということです。宝塚歌劇のラインダンスの場面においてタイトルロゴの装置が使われることは決して珍しいことではありません。しかしこの場面はオリジナルと振り付けもその他の舞台装置がほぼ同じであるために気になる部分です。あくまでもオマージュであり、『The Fascination!』という作品の一部であることを強調しているのだと考えられますが、「ピアノ・ファンタジィ」の世界観を楽しむ観客側からすれば不必要なものとも言えるでしょう。

タイトルロゴの装置(開演前に撮影)


木戸は更にインタビューで「僕は歌劇の薫りや情緒を大切にしている」という関戸の言葉を念頭に、デザインをしたと述べています。また振り付けを担当した御織も同インタビューで「当時の雰囲気やテクニック、見せ方、そういうものを皆に伝えられれば」と答えていました。このことから宝塚歌劇では生徒だけでなく、スタッフから生徒へ、またスタッフ同士の間にもわざが伝承されているということを読み解く事ができます。「ピアノ・ファンタジィ」のオマージュは出演する生徒だけでなく、宝塚歌劇を支えるスタッフにとっても大きな意味を持つ場面であると言えます。


まとめ


今回は花組公演『The Fascination!』よりピアノファンタジーについて考察を行いました。そもそもたくさんの公演・場面がある中でなぜこの作品のオマージュになったのかは定かではありません。ただ公演座談会で演出家の中村一徳は「この場面は絶対にやりたいと思っていたら夢に小原先生が出てきて、あぁこれは絶対にやらなあかんな」と述べています(『歌劇』2021年11月号)。中村は『フォーエバー!タカラヅカ』に演出助手として関わっていたため、彼にとっても思い出深い作品であり、ダンスの花組の礎を築いた大浦みずきの主演作品をオマージュすることは花組にとって意味のあることだと考えられます。


私は大浦みずきの舞台を生で見たことはありません。しかし彼女のダンスを見れば見るほどキレと美しさと本人がダンスを楽しんでいる姿に魅了されていきます。大浦は2009年に亡くなっており、本公演に直接関わってはいません。しかし柚香光を中心とした現在の花組でも、大浦の時代と変わらぬ華やかな「ピアノ・ファンタジィ」があり、宝塚歌劇の伝統を感じさせる場面でした。そして宝塚歌劇で過去の作品を再演することはファンが懐かしむだけではなく、公演に携わる生徒・スタッフにとっても伝統を受け継ぐ貴重な機会なのだと感じました。






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