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  • 執筆者の写真ゼミ 横山

実演販売士のわざ

更新日:2022年11月22日

レジェンド松下氏に聞く


取材日:2022年5月11日

遠藤美菜・加藤凪・寺岬優・浜本杏・福悠香梨


家電量販店やスーパーマーケット、あるいはテレビなどのさまざまな場面で、実演販売士による実演販売を見たことがある人は少なくないのではないしょうか。どのような話をするのか気になって聞いてみると、いつの間にか見入っていて、話を聞き終わるとその商品が欲しくてたまらなくなります。このように人を引き込み魅了する実演販売のわざ、そしてそのわざの伝承はどのようなものなのか、この記事を通してお伝えしたいと思います。


今回は、多くのテレビ番組にも出演されている人気実演販売士のレジェンド松下さんにインタビューを実施しました。実演販売士になるまで、師匠からの指導、そこから生まれたレジェンド松下さんの実演販売の極意などについて、興味深いお話を伺うことができました。


レジェンド松下



大学卒業後、実演販売士としての歩みをスタートさせ、現在は実演販売だけではなく、商品開発や商品プロデュースも手掛ける。1000商品以上のヒット商品を生み出し、1日最高売上額は2億円にものぼる。店頭での実演販売だけではなく、テレビ通販やバラエティー番組にも数多く出演し、様々な場所で活躍する日本を代表する実演販売士。2022年2月に株式会社あんきいず(UNKEYS)を立ち上げ、代表取締役社長に就任。



プロの実演販売士になるまで


──就職活動での挫折経験を経て実演販売士になられたという記事を拝見しました。進路を決めた時、どんな覚悟を持っていたか教えていただきたいです。

就職活動のときに、テレビ局、番組制作会社、コピーライターみたいな「作る側」の仕事をやりたいなと思って何社か受けたんですが、うまくいかなくて。僕はもともとテレビ自体が好きだったので、実は出る側にも興味あったけど気持ちを押し殺していたんです。でも全部落ちたんだったら「出る側」に行ってみようと思って、挑戦することを決めました。芸人や役者の道も考えましたが、野球場で売り子をした経験があったので、テレビショッピングだったら自分が一番成功しやすいと思って、出演するためにはどうしたらいいか考えた結果、実演販売の道を選びました。


──テレビショッピングに興味を持ったきっかけは、ご師匠(注)なのでしょうか。

(注)和田守弘氏。実演販売のカリスマ的存在であり、和田商店を起業している。


それは違います。20年くらい前は「テレビショッピングって何なんだ」という段階で、ようやくジャパネットたかたがメディアでイジられ始めたくらいの頃だったので、テレビショッピングは深夜に放送されていて、現在よりもっと怪しいイメージでした。でもなんかそこに職人みたいなものを感じていたんです。小さい頃、当時電気街だった秋葉原に父に連れて行ってもらった時に実演販売を見て「なんかすげえ」と思った記憶がありました。そういうのから実演販売っていうものに対する憧れというか、かっこよさを感じていたと思います。


── 一人前の実演販売士になるまで、どのようにステップアップしていくのでしょうか。

これまで20年ぐらい実演販売をしてますけど、一人前の基準ってよくわかんないんですよね。1年目と比べて20年目の現在はそれなり成長してるんですけど、まだ自分でここ足りないなっていうのが絶対に出てくるので。


「ヒットを売って、ホームラン打って」を繰り返して、初めて経験値を積めるということは今だからこそ分かるんですけど、若い頃は、「すぐにホームランを打ちたい!」っていう気持ちがすごく強くて。周りのみんながそれなりの会社に就職していくなかで、「すぐ結果を残さなきゃ世の中に認められないのでは」みたいな漠然とした不安がありました。だから成功を急いでるような感じでやっていました。


大学4年生から付き合っていた彼女、結局結婚することになるんですけど、その時彼女は僕だけ実演販売という仕事に就いたことに大号泣しました。結婚を見据えて付き合っている彼氏がわけわからない仕事を始めたら嫌でしょ(笑)。芸人よりも認知されてないわけですから。「キャベツの千切りをずっと切ってる人みたいなその人と結婚しなきゃいけないの!」って。その後も彼女からは「いつ結婚するんだ」ってずっと言われていたんですが、僕は「一人前になったら結婚しよう」って答え方をしていました。


そのうち、ちょっとずつ実演販売士としてお金を稼げるようになったんですが、さっき言ったように、何をもって一人前なのかがわからなかったんです。結局一人前には一生ならないんですよ。だから一人前にならないんだったら、じゃあとりあえず結婚しちゃおうと思って、29歳ぐらいのときにしました。逆に言うと、結婚した後から一人前へのスタートが切れたかな。


──?

なぜかというと、我々の仕事って「言葉」だけで売っているように見えるんですけど、実は「生活体験や自分の経験」が言葉に乗っかってくるからなんですね。それまでは、生活用品、生活雑貨を扱っていても「生活」がよくわかっていませんでした。結婚することによって、住む場所が一人部屋から3LDK、4LDKのちゃんとした家になって掃除が大変になったり、子供ができたら育児が大変になったり、生活に関する悩みが次々にわかってました。そこではじめて、「僕らの仕事ってこういう悩みを解決する仕事なんだな」と実感しました。商品によって解決するその「悩み」の部分が、生活を通して色々見えてきたんです。


僕は結婚する前まで「言葉」で商品を売ってたんですよね。でも実演販売士としての経験に「実体験」が加わることによって、商品に対する見え方が変わってきました。つまり、技術だけで一人前を目指そうとしていたんですけど、実はそういうことじゃなかった。「それ以外の人生をしっかりと歩むこと」で一人前への道は切り開けるのかなと思いますね。良いこと言うでしょ(笑)。


──生活の中で自分の「一人前」に対する考え方が変わってきた、ということですね。

そうですね。特に1年目とかは「この自分のトークで売ってやる!」という感じでした。本当は悩みを解決するとか、こういう商品なのだからこう勧めるとかっていうことがあるべきだったのに、「自分の腕や技術だけで売る」みたいな考え方があったんですね。「売れたい!」というような考えは余計なことで、そうじゃないことの方が重要だというのは、後からわかってきたことです。

──そこが新人とプロの違いなのですね。

そうですね。僕は若い人に「いきなりホームランを打とうとするな」と言います。売れる経験も売れない経験もあって、引き出しをいっぱい作ることで初めて次の商品に繋がっていくんですね。もちろん若手でも、ある商品を渡して、それをいきなり売ることができる人もいます。売れない人もいます。でもその後、売れる商品をどんどん捕まえて、いろんな商品が売れるようにならなきゃいけないんです。だから、この1個目の商品を売ることで終わってしまったらだめなんですよね。


「1個目で売れないからやめる」っていう人だけじゃなく、運よく1個目が売れても次に来た商品が売れなくて、思うようにいかないからやめるって人も多いんですよね。でも、売れる経験も売れない経験も大事。こういう商品が売れなかったんだ、じゃあこういう商品ならば売れるんじゃないのか?っていう蓄積をしていって、10年ぐらい経ってくると、「松下さん、新しい商品をお願いします」って依頼されたときに、その蓄積が効いてきます。たとえば、「この商品は5年前に同様の商品で1つ売れた商品がある。当時のブームが過ぎ去った今でもこういう切り口だったら売れるはずだ」──そういうのがわかってくるんです。


それが「経験」だと思っています。1年目のときにはたまたま売れたかもしれないけど、1年目に売れた経験って、「蓄積」に基づいているわけじゃないんですよね。でも、この仕事を10年ぐらいやると、今までの蓄積から売れる理由が見えてくるんです。そして、20年やるとさらに見えてくるようになる。この経験値を積んだ人間が成長して行く。この引き出しの多さが、新人とプロ、経験積んだ人間との違いだなと思います。

──若手の頃に失敗を多く経験した人の方が成長しやすいということでしょうか。


正しくいうと、成功も失敗も大事です。失敗ばかりではやっぱり落ち込んじゃうし。成功したけどこういう風にしたから成功したということを理解する。で、もちろん失敗もある。それでも「なんで失敗したんだろう?」と振り返ることからその失敗を生かして、次来たときに同じ失敗をしなくなる。そのときに、この商品はこういう理由だから売れないなっていうことを理解するからです。 だから「失敗も重要」じゃなくて「成功も失敗も両方が非常に重要」です。


——失敗した時に、どうせまた次も失敗するんだからもうやりたくないとはならないのですか。


なるよね。なるけど、仕事自体はもちろん辞めちゃったら終わりだと思いますし、こういう商品のジャンルは自分に向いてないんだっていう発見も、経験になります。商品が売れなかったなら、売れなかった経験ができたってポジティブに考えられるかがすごい重要です。マイナスの経験をプラスに変換することができる、これが次の成功への第一歩だと思いますね。

──失敗や成功という結果の理由を理解することが重要なのですね。

そう。ただ、反省するといっても、引っ張り過ぎちゃうのもだめで、諦めることも大事です。そのあたりの加減が難しいんですけどね。


あとは、周りからのアドバイスを聞くことも聞かないことも大事です。売れなかった時には、「こうなんじゃないのか」っていろんな意見が出てきますが、みんな言っていることが違う。結局その中でじゃあ自分は何をチョイスするか。周囲の意見を「聞きつつ聞かない」、つまり鵜呑みにしない。そして最終的な判断を人のせいにしないようにすること。ここが重要です。


「あの人が言っていたからその通りにやったのにダメだった」って言うのが一番良くないパターンです。人のせいにする人は全然伸びないです。最終的な判断として、その人が言ったことを自分が選んだ、だから失敗した、という着地点にたどり着くことが大切ですね。


師匠との関係


──師匠から直接の指導を受けられたことはありますか?


師匠から直接、ああしろこうしろ、と指導されたことはほとんどないんです。でも一つはっきり言われたのが、警備員さんや清掃員さんに絶対に挨拶をすることです。売りにだけ行くのではなく、売り場全体の人とコミュニケーションを取ることで良い空気を作るところから始めること。これが唯一指導されたことです。今でも、どこでも挨拶を通してその場の空気を良くするようにしてます。


──芸能の世界に「守破離」という言葉がありますが、そうした経験はありますか?


実演販売にも守破離に通じるものがあります。実演販売に向いてる人って、真っ白な人、師匠の教えを素直に受け入れられる人だと思うんです。僕も師匠の技を真っ白な状態で学んでました。2年間は師匠が喋ったことをテープレコーダーで録って毎日同じことを喋るようなこともしてました。それが「守」の部分です。「破」のタイミングは、違うことをし始めたときでした。いろんな商品を作れるようになってバラエティ番組にも出られるようになったことが、「破」だと思います。このタイミングで世の中にも広く実演販売のことを知ってもらえたと思います。そこから「離」の段階ですが、まだその段階には行けていないと思っています。全く違うことをし始められたら、「離」でしょうね。


──テープレコーダーで独自の練習法をされていたんですか?


そうです。師匠の言うことを真似しているうちに、リズムができていったんです。他の商品でやってみても売れるリズムがわかってきました。最初は、実は台本を作ってたんです。だけど仕事が増えていくうちに頭に入ってきて、型が身につけばどの商品にも当てはめられるようになってくるんですね。


松下さんの実演スタイル


──2021年6月の『and E』でのインタビュー記事や、先ほどのお話において「場の空気づくり」の重要性をお話しされていました。具体的には、お客様の目にとまる場づくりのためにどのようなことを行っていますか。


当たり前ですけど、買う人がいないと、物は売れません。よく聞かれるのが、「サクラ」のことなんですけど、実はサクラをつけるとかえってものは売れないんです。僕らの実演って、15分とか30分とか喋るんですけど、たとえばサクラの人に「ちょっとすみません、サクラで良いんでそこら辺立っていてください」って頼む。そうすると、サクラの人は全然興味が無いのに15分くらい立ってるから、帰りたいって空気になる。一番良いところ(最前列)にいるお客さんが帰りたいって空気になると、他のお客さんも帰りたいって空気になる。これじゃあ売れません。


売れているお店って、何のお店でもそうなんですが、買ってるお客様がそこにいるんです。買ってる人がいるから入ってくる。繁盛店に行きたくなる心理です。だから繁盛店を作り出す必要があるんですよね。そのためにはここに(と最前列を示す動作をする)本当に買いたいお客さんがいて、本当に買いたいから前のめりになっている。前のめりに一番最初のお客さんがなってると、次のお客さんも前のめりになる…っていう連鎖ができるんです。


お客様のことを我々の業界用語で「陣」っていう呼び方をします。一人っていう捉え方じゃなくて、陣があって、陣があって…(と言いながら次々と塊を作る動作をする)。お客様は、最初は我々のいる机から見てずっと離れた奥の方にいます。で、ちょっと興味を持ってくるとだんだん近づいてきて、でもある程度一定の距離をとる。僕に「いくわよ」っていう決め台詞があるんですけど、この「いくわよ」を、一番前のお客様がグンッと吸い込まれるようなポイントとして作る。そうするとお客様がここまで来て(再び最前列を示す)、ここまで来ると、その人垣を一陣と呼ぶ。その一陣にいるお客様は全員が「欲しいお客様」。そこに良い商品を紹介して買っていただく。それで途中から来て二陣にいたお客様に「もう一回最初から説明します」って言うと、二陣のお客様が一陣のお客様のところに来る。そうやって陣を入れ替えていきます。


──凄いです。


よくどうやったらそんなに売れるのかって聞かれますが、むしろ、どうやったら人を集められか。最初に集めるのってめちゃくちゃ大変なんです。プロにも特別な何かがあるわけではないんです。でも、人がいる状況から次のお客様を集めていくっていうのは比較的楽。だから常にお客様がいる状態を作る。それが繁盛店の条件です。


2時間とか3時間とかお客様がいる状態になると、「あの店いつも人いるな」ってイメージになる。それがさっき言ったサクラのような人がいると崩れてしまうんです。同じ喋りをしてるのに一個も売れないのが、そういうサクラがいるとき。前のめりの良いお客様がいるときはものの見事に全部売れる。50個並べれば50個売れる。それくらい良いお客様との空気の作り方は大事です。だから本当に興味を持って買いたいお客様を集めたい。


どういうときにそういうお客様が来るのかって言うと、複雑なんですが、なにもやってないときです(笑)。バーコードを貼っていたり、片付けていたり。実演って大体7時くらいに終わるんですど、7時ピッタリに帰りたいときもあるじゃないですか。7時半から飲み会があるときとか。帰りたいから6時45分くらいから片付け始めるんですよ。ゆっくりゆっくり片付けて、7時ピッタリに帰ってやろう!ってときに集まって来て、結局7時半までかかる。不思議なもので(笑)。だからこちらに売ろうとするオーラがないときに一番売れます。


──商品に本当に興味を持った人が来ることがとにかく大切なんですね。


ハッタリというものがあって。どういう商品か見てもらうために置いておく仕掛けなんですけど。それでお客様に興味を持ってもらえるように作っています。「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ!」とか呼び込むのではなくて。ハッタリでお客さんが商品に吸い込まれるようにできるかが重要です。それが八百屋の安売りとかだったら全然違います。八百屋の場合は、買う側ももうそこにあるのがどういうものか知ってるから。我々が扱ってるものって、どういうものか知られていないものが多いんです。


──商品に対するいくつかの疑問の声に答えていく手法をとっていらっしゃると思いました。そういった「声」は、製品のことを知り尽くす松下さん自らセールスポイントを伝えるために考え出したものでしょうか。あるいはアンケート等で寄せられたお客様の「声」を参考にしたものでしょうか。


アンケートではなく、基本的には自分の感覚です。自分がその商品について興味を持ったことか。あとは、もちろん気づかないこともあるので、それはいろんな人に聞いて。パッと誰か周りの人を捕まえて、自分の感覚が合っているのかどうか確認する。とにかくいろんな人に聞いてもらうということはやっています。


──先ほどのインタビューでは、商品開発において「喋ることを考えて作る」ということもおっしゃっていました。通常の商品開発との違いを伺えますか。


普通は商品がお店に置いてあって、ジャケ買いじゃないですけど、「これかわいい」って見た目で判断して買うことがあるじゃないですか。ただ我々の商品というのは、見ただけでは何かわからない、説明を必要とする商品が多いんです。置いてあるだけでは売れない商品。商品説明の喋りがあることを前提に商品名をつけることもあります。


たとえば「ゴムポンつるつる」っていう商品を作ったんですけど、これはタオルがゴムでコーティングされていて、拭くとお肌がつるつるになる。名前のまんまなんですけどね(笑)。置いて売るだけならその名前にしないんですけど、「ゴムポンつるつるって何だ⁉」と思ったお客さまに対して「これ、実はゴムでできているんです。拭くとつるつるになるんです」っていうコミュニケーションが続くことを前提にして、そこを凝縮したような名前にする。このように喋り前提で商品名を考えています。


──説明を聞きたくなるような商品を作っていくということですね。


そうです。




──今まで実演販売で伝えることが難しかった商品はどのようなものですか。


これは結局お断りした企画ですけど、たけし軍団さんが3日間ご飯を食べないでお腹を空かせている状態で、その芸人さんたちに白飯を渡す。そこでこちらが商品をプレゼンして、芸人さんがごはんを何杯食べられるかという企画でした。


基本的に、その商品について喋って説明すべきことがあれば実演販売はできますし、世間でも喋りの面が注目されていると思うのですが、実は僕らはビジュアルな情報を重要視しています。ある商品があったときに、どのような見せ方ができるのかということが、すごく重要なんです。先程のたけし軍団さんの企画で扱う商品は、目で見て面白いデモンストレーションができる余地がなかったので、売りにくい商品だったということですね。


──実演販売の「実演」をメインにされているんですね。


そうですね、やっぱりビジュアルありきで、そこに喋りは乗っかってくる形ですね。


──松下さんの実演販売で決まり文句や決まりの実演のようなものはありますか。


これを言えば売れるっていうものはありませんが、僕の場合「ひろげすぎない」ということは大事にしています。たとえば、「大事なことは3つだけですよ」というふうに限定してあげる。あるいは、全員に買ってもらおうとして喋ると、お客様からすると買わされるという感じになるので、「こういう人は買ったほうがいいですよ」「こういう人は買わないほうがいいですよ」と線引きする。こういうことは意識しています。


それから、接続詞も意識します。基本的にお客様の前で話すときは一人喋りみたいになりますが、そこにお客様が話に入ってくると話の構成が壊れてしまいます。そこで、「こういうときにこう思いますよね?」という振り方をしてから、「だから」という接続詞を強く伝えてあげると話がわかりやすくなります。そうすると、お客様が変な質問をしてこないで頷いて聞いてくれるので、「だからこの商品なんです!」と繋げることができます。それをやらないとお客様に「これはどうなるの?」と聞かれてしまい、構成通りにいかなくなるので空気が壊れてしまいます。あくまでも自分の展開で進めるためにお客様に問いかけながら、自分で答えてそれを接続詞でしっかり繋いであげることを意識しています。


──店頭での実演販売以外にも、テレビやYouTubeなど様々な現場があると思いますが、現場によって違いはありますか。


店頭でやる実演販売は、集まったお客様を話に惹き込まなければいけないので、オチをあとに持ってきます。一方でテレビショッピングなどは1千万人くらい見ているなかで、最初からその商品に興味があるという前提で話すので、最初にオチを持ってきます。だから、英語と日本語の文法の違いくらいの違いがあります。テレビショッピングでオチをあとに持ってきてしまうと、単純に電話をかける人が減って売り上げも減ってしまいます。話の構成も、金太郎飴のようにどこ切ってもオチというふうにしますので、店頭とはまったく違います。だから、テレビの人が店頭で必ずしも売れるとは限らないですね。


──テレビで実演販売をする場合、カメラがどう撮るということを頭に入れてやってらっしゃるのでしょうか。


撮り方は一定ではないんですが、人間の視線の移り変わりとカメラは違うので、ちゃんと映してほしいところを撮りやすいようにします。例えば「ちょっとここを見てください」と言ってからしっかり待つようにします。次に何を撮るのか、というのはわかったうえで進めていくので、手で合図したりしますし、ハンディカメラの場合はカメラマンさんと目線でコミュニケーションします。


──事前の打ち合わせとかはないのですか。


現場での阿吽の呼吸ですね。


今後について


——今、松下さんはお弟子さんや後輩などに直接ご指導されることはありますか。


前の会社にいた時は後輩がいっぱいいたので教えたりすることはありましたけど、今は基本的には一人でやっているのでないですね。


——後輩に教えていた頃は、松下さんがお師匠さんを見て真似ていたように、見て学びなさいというスタンスが多かったのですか。


誰のやり方も正解なんですよね。その正解のなかで何をしていくかだよね。もちろん細かいところで、こうした方がいい、ああした方がいいってちょっとのことはあるんですけど、基本的には自分のやりたいようにやった方がいいよってスタンスです、僕は。


——株式会社あんきいずのホームページでも実演販売士の募集を見ましたが、応募は来ていますか。


応募は来るんですけど、今は一人でやってる環境上なかなかマネジメントもできないのでお断りしてます。いずれ取っていく可能性はあります。


——どういう人を求めているのですか。


全員が成功する職業ではないので、簡単に「実演販売始めたらいいですよ」とは言えない。どうしてもやりたい、こうやってテレビに出てみたいっていう人たちのなかで、ほんの一握りだけがテレビに出られるようになる仕事なので。ただ、チャレンジすることはすごく良い経験にはなるとは思うので、どういう志でここに来るのかっていうことが重要ですね。


——現代のテレビ離れと実演販売士という職業の今後についてのお考えをお聞かせください。


それはね深刻ですよね。もちろんテレビ自体は無くならないと思うし、企業も物を作るってことはやめないと思います。だから、物を紹介する、プレゼンをするっていう技術は、形は変わっても求められていくのかなと思います。


昔のデパートでの実演販売だけの時代から、我々の仕事はその後バラエティとかテレビショッピングにも広がっていった。さらに10年20年経って、そういう時代じゃなくなっていくのは間違いない。その時に何が変わるのか。守破離の破、もしかしたらその時は破じゃない離の部分になってるかもしれないんですけど、それでも人として喋ることの本質は変わらないと思います。特に日本語の微妙な部分ていうのは、AIじゃ絶対できない。コンプライアンスも厳しくなって、言っちゃだめなこと、やっちゃだめなこともいっぱいある。ここまでしか言えないというなかで伝えていくってことが、実演販売の腕の見せ所だったりします。


——松下さんとしては、自分が実演をするフィールドがテレビ以外に変わっていくということに抵抗はないのでしょうか。


いきなり明日から変えろってなったらあれなんですけど、そういうのってちょっとずつ変わっていくものなんで。そのちょっとずつの間に、「俺はやらない」じゃなくて、「ちょっとやってみるか」ってなるかですね。今だとライブコマースとか。まだその時代は来てないけど、10年後には来てるかもしれない。そういうものにちょっとずつ興味を持っておくことがすごく重要ですね。いきなり明日から世界が変わりますなんてことは、絶対にないので。


最後に


——松下さんの今後の目標をお聞かせください。


世界中にある面白い商品が全部自分のところに集まってくるようにしたい。そのために、今までやってなかった商品に挑戦して、あと10年ぐらいかけてどんな商品でも実演販売できるようになる。自分で作るのも色々やったけど、それは20年間やってきた自分のノウハウだけでしかありません。今でも「こんな商品があったのに実演販売できてなかったんだ」っていう新しい発見があって、いろんな商品をもう一度勉強し直している最中なんです。扱える商品のカテゴリーを拡げて、最終的には日本から世界のテレビショッピングにどんどん出ていくような感じになっていけたら面白いですね。


——就活生やこれから就活をする人たちへエールをお願いします。


僕も就職落ちた時は絶望しました。実演始めてからも、売れなかったときには俺はもうだめだって思いました。テレビショッピングに最初に出たときとかは、下手すぎてカットになっちゃたの。それくらい失敗したけど、今はその番組にも出させてもらってます。そのときは絶望なんだけど、その絶望から何年か経つと必ずもう一回チャンスが来るんで、その絶望を経験したことを糧に生きていってほしいと思います。


編集後記


遠藤

実演販売士は、才能がものを言いそうなお仕事だと思っていました。しかし、今は当たり前のようにこなしているわざでも下積みの時期には地味な練習を積み重ねた過去があったことをお聞きし、私には意外な発見でした。また、何をやるにも真っ白な素直さと学ぶ心持ちの有無がその後の成長に関わることを、お話を伺うなかであらためて確認することができました。挨拶の大切さについてのお話も印象的でした。挨拶をすることでその場も人間関係も和やかなものにしてより良い環境を作るというのは、今後自分でも心がけたいと思います。


加藤

特に大きな学びになったのは、「良い喋りの台本を作って間の取り方を練習すれば芸が完成するわけではない、お客さんや商品があってこその実演販売である」というお話でした。松下さんは、インタビューの際にも、笑いを交え盛り上げながら私たちがインタビューしやすい空気を作ってくださり、空気づくりのプロのわざの一端を見ることができた気がしました。


寺岬

松下さんの実演販売の「わざ」とは、仕事で得た知見だけでなく、私生活での発見、コミュニケーションの取り方など一言で言い表せない様々な経験の積み重ねによるものだと感じました。私は何かを練習する際に「絶対失敗しない方法」など、わかりやすい正解を求めてしまいがちでしたが、自分だけの「わざ」を手に入れるために日々の生活から学んでいきたいと思います。終盤はもはや人生相談になってしまいましたが、どんな質問にも親身に応えて下さり、本当にありがとうございました。


浜本

時代とともに実演を行う媒体は変化していくけれど、たくさんのものに目を向けながら松下さんにしかできないことを続けていこうとする姿勢に感銘を受けました。インタビューの節々から人とのつながりを大事にされているお人柄が伝わってきて、「レジェンド」たる所以が伺えました。いきなりホームランを狙わないことや、失敗してもその失敗を経験にすることが大事というお話は、私自身の今後の人生において大切にしていきたいと思いました。胸に響く貴重なお話をいただくことができて、感謝しております。


店頭やテレビなど、さまざまな場面で実演販売を見る機会がありますが、媒体それぞれで実演販売の仕方が違ったり、喋りではなく実演に重きを置いている点など、意外なお話をたくさん伺うことができました。私たちの質問に対して丁寧に応えてくださり、とても温かく受け入れていただいきました。この持ち前の明るさと温かさが実演販売にも表れているのだなあと、実感しました。



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