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文献紹介『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』

  • 執筆者の写真: ゼミ 横山
    ゼミ 横山
  • 2024年7月9日
  • 読了時間: 6分

宮藤幸太郎


 

近年の急速なSNSの発展により、それぞれの国内で競争するだけだったエンターテインメントも、その戦いの場が世界視野に拡大しました。その流れにいち早く乗り、現在の音楽シーンを大きく賑わせているのが、K-POPです。その人気は日本でもすさまじく、若者を中心に常に大きな話題になっています。これからもさらに世界と戦わなくてはいけない日本のエンターテインメントですが、発展していくためにはどのような変化が必要なのか、私の研究ではK-POPとJ-POPの手法を比較していこうと考えています。

 

今回は、2021年に朝日出版社から出版された、田中恵里菜氏の『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』をご紹介します。この本では、K-POPがどのような手法を使い市場規模を拡大していったのかについて5つの章を通じて考察されています。そこから、慣れ親しんだJ-POPからは考えられないような、ファンに着目した手法があることを知りました。特にそうした点に注目をして紹介をしていきます。 



ファンの団結

 

ファン全体のことを「ファンの皆さん」と呼ぶことが多いJ-POPと違い、韓国では、「〜の勢力範囲」を意味する「ダム(-dom)」をつけて、「ファンダム」と呼んでいます。このことによって、個々人ではなく、集合体であるという意味合いがより強く強調されていると田中氏は述べています。本書ではその象徴として、BTSの「ARMY」を例に挙げ、BTSが受賞した「トップ・ソーシャル・アーティスト賞」の受賞背景について触れています。


この賞は、「SNSでのフォロワー増加数やクリック数、ストリーミングデータなどを分析したインターネットでの影響力をもとに、ハッシュタグ投稿や特設ページからの投票数を合算し決定する賞」であり、「国内チャートのために日々スミンをして鍛えられてきたK-POPファンダムのARMYからすればこの審査基準はお手の物」なのだそうです。


スミンとは音楽のストリーミング再生をファンが率先して行っていくもので、リアルタイムチャートを取り入れている韓国で、ファン同士が協力して何度も同じ曲を再生し、再生数を稼いでいくことで、チャート上位を目指す行動のことです。本書はさらに、時差を利用し国外のARMYたちと交代しながらシフト制のような形で、このスミンを行っているといった実情を伝えます。世界中のファンが「ARMY」という名前の元に一丸となり、アーティストを押し上げていくとてもいい例ではないでしょうか。


 

ファンサブ


また、K-POPにはファンを一人の応援する人から、広報に成長させるような仕組みが多く存在していると本書では紹介されています。その一つが、動画配信サービス「V LIVE」における「ファンサブ」です。「V LIVE」とは、K-POPファンにはお馴染みの動画配信サービスだそうです。多くのアイドルやタレントのチャンネルがあり、日常を切り取り一緒に時間を過ごしている感覚になれるようなリアルタイム配信が行われていて、ファンとアイドルを繋ぐコンテンツとして人気を獲得しています。


ファンの根底にある、アイドルに近づきたい、コミュニケーションを取りたい、という願いを叶えてくれるこのサービスは、海外のファンとの言葉の壁を埋めるべくリアルタイムで複数の字幕がつけられる機能が備わっており、2020年の段階で利用者の85%が海外ユーザーというグローバルプラットフォームに成長しているそうです。

 

そんな「V LIVE」がK-POPのファンダム拡大に功を奏した大きな理由が、「ファンサブ」と呼ばれる、ファンがつける字幕だと言います。日本の著作権法では著作者の許可を得ずに翻訳したりすることが禁じられていて、「ファンサブ」行為は長らく問題視されていたものの、一方で勝手に字幕がつけられた無許可動画が海外で拡散され、それが世界中にファンを生み出したのも紛れもない事実だそうです。そこで、「V LIVE」はこれを逆手に取り、ファンによる地道な活動をマーケティングの駆動力として活用したと言います。


ファンの間で分担しながらその都度保存できるシステムが整っていたり、アーカイブ動画の冒頭で翻訳者の名前がクレジットされる機能もあったりと、好きなアイドルを広めたい使命感で自ら翻訳に努めるファンは多いといいます。また、プロの整った翻訳ではなく、タレントに大きな愛を持ったファンが翻訳することも、「V LIVE」ユーザーの8割を超える海外ファンに響いているのだそうです。

 

ホムマとサポート


また、本書では「ホームページマスター」の存在にも言及しています。韓国では「ホムマ」と略されるこれは、アイドルの姿を自ら撮影し、レタッチなどの編集を加えた写真や動画をSNSなどにアップしたりする人々のことだそうで、日本の肖像権においては認められていない文化だといいます。韓国でもグレーであるというホムマの存在も、広報的な役割が認められていることから黙認されているそうです。


確かに、公式から発売される写真などの枚数には限界がありますが、ファンが各々アイドルを撮影しSNSにアップしたり、その写真を利用してグッズを作成・販売・配布したりすることが黙認されているのであれば、その拡散力が桁違いなことは明白です。

 

さらには、ファンが出資する応援広告の「サポート」も見逃せないと紹介されています。ファンが実費で街頭広告を出したり、テレビ番組等の撮影中にタレントやスタッフに向けてケータリングを送ったり、と日本では考えられないような「サポート」が文化として行われていて、中でも広告に関しては、一例としてカフェとのコラボが紹介されていました。タレントの誕生日に合わせて一定期間店内にタレントの写真を飾ったり、カップのスリーブをタレントの誕生日の記したデザインに変えたりするのだといいます。

 

こうしたサポートのための資金は、ファンダムの団結力の元にクラウドファンディングの要領で集められ、広告用の写真にはホムマの写真が使用されているようで、韓国のファンならではの文化であることがとても感じられました。

 

 

最後に

 

今回紹介したものの多くは、著作権や肖像権が厳しく運用される日本では実現が難しいものです。とはいえ、エンターテインメント促進のために著作権法を緩めることは効果的だとは思いませんし、タレントを守るという面ではむしろ逆効果のように思えます。


しかし本書では、日本にもこの文化は輸出され始めているとも書かれています。応援広告が激増したとしているオーディション番組「PROJECT 101」シリーズの、「PROJECT 101 JAPAN」が2019年に放送された際、韓国の本家を知っているファンたちが日本でも応援広告を出そうとしたそうです。その動きを把握した公式が、「公式ロゴやホームページ記載のプロフィール写真に限り使用可能」と柔軟にルールを提示して慰霊の許可を出したと言います。この時は代理店が対応しきれず広告の掲載は難航したそうですが、タレントを守ることを最優先とする日本の著作権と、ファンが作り出す韓国の無限の拡散手段が、一つ融合し始めた瞬間のように思いました。

 

今後はこのように、日本が作り上げたエンタメの良い部分に韓国が急進してきた要因を掛け合わせ、海外でも戦うことができるエンタメが作れないか考えられるよう、知識を深めていければと思っています。

 

 

参考文献

田中絵里菜 2021『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』朝日出版社

 
 
 

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