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  • 執筆者の写真ゼミ 横山

映像技術がもたらす劇団四季への新しい風   

更新日:2023年4月18日

~ミュージカル『アナと雪の女王』~

岩月七海


はじめに


先日、劇団四季のディズニー最新ミュージカル『アナと雪の女王』を観劇しました。2013年に公開された劇場版長編アニメーションを元に創作された今作は、2018年3月にブロードウェイで初演され、2021年8月に日本の劇団四季で満を持して開幕を迎えました。開幕から1年経った今でも沢山の観客が会場に足を運び、スタンディングオベーションで俳優陣達が歓迎される素晴らしい作品でした。


しかし今回の『アナと雪の女王』はこれまでの劇団四季作品とはどこか毛色が違う、新しい一面を観ることができる作品だったという印象を受けました。以前の作品と一線を画す要素を、原作であるアニメーション業界の変化、演出の特徴という観点から紐解いていきたいと思います。



写真1 ミュージカル「アナと雪の女王」作品紹介 劇団四季<公式サイト>、ギャラリーより  https://www.shiki.jp/applause/anayuki/gallery/index.html


原作の変化


近年、アニメーションでは2D作品から3D作品への移行が急速に進んでいます。海外のアニメーションスタジオでは早くから3Dアニメ制作のソフト開発が進んでおり、2000年代には多くの作品が登場しました。


今回の原作「アナと雪の女王」を生み出したウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオもその一つです。初期のディズニーはコマ送りの原画内でいかに自然にキャラクターが動き回るのかを研究しアニメーション業界の基盤となりました。しかしピクサー・アニメーション・スタジオが設立されてからはフルCGアニメーションが主流となり、ディズニー作品にも作風の変化が生じました。


フルCGによる3Dアニメーションは、画面内の空間を様々な角度から捉え、表現することを可能にし、よりリアルな映像作品の制作に繋がりました。またその空間表現の豊かさが評価基準の一つになり始めているように思います。私は、こうした空間表現の豊かさへの期待は今回のように舞台化された場合にも観客のなかで維持されていると制作者側が予想して、舞台上の空間表現にも影響を及ぼしているという仮説を立てています。

演出の変化


こうした仮説は、今回のミュージカル『アナと雪の女王』には特にあてはまるのではないかと思います。映画版『アナと雪の女王』では世界観の表現に大きく関わるCG制作費に多額の資金がかけられ、ファンタジックな空間をしっかり描ききっていました。続編とあわせて、ディズニーアニメーションスタジオの作品の中で興行収入第1位と第2位を記録していますが、第1作における進化した映像技術の衝撃が大きな要因であったと考えられます。


だからこそ舞台化に際しても魔法が生み出すファンタジックな空間の表現に一層力が入っているように感じました。特に他の四季作品と一味違う雰囲気を醸し出していたのは、原作でも人気が高いエルサの雪山の中での「ありのままで」の歌唱シーンでした。歌い始めたエルサは舞台を横軸に使うだけではなく縦方向に動き回り立体空間を感じさせる立ち回りでしたが、この演出方法はこれまでの作品にも見られるものでした。


しかしその動きに合わせたプロジェクションマッピングの技術によって舞台上、袖幕、脇幕などの細かな部分にまで雪や氷の結晶が出現します。これは今までにはなかった初の試みで、今作を一番印象づけたシーンでした。3Dアニメーションの空間表現の豊かさに匹敵するものを実現するために、新しい方法を取り入れる必要があったのではないでしょうか。原作の最重要シーンですが、舞台でもリアルでダイナミックな空間表現に大成功したといえるでしょう。



写真2 最大の見せ場は、やはりエルサの魔法。代名詞的なヒット曲『ありのままで』を歌いながらエルサが雪と氷の宮殿を創造していくさまは、幻想的で息をのむ美しさ。NEWSポストセブンよりhttps://www.news-postseven.com/archives/20210713_1674594.html?DETAIL


フィジカルから映像への変換の時期


今作を鑑賞して、映像技術の変化は映像作品のみならず舞台などの別媒体の作品にも変化を促すものだと強く感じました。これまでの劇団四季の作品では、ライオンキング冒頭の「サークル・オブ・ライフ」やリトルマーメイドの「パート・オブ・ユア・ワールド」などのような、限られた空間と身体スケールを生かした舞台装置による迫力ある演出が魅力的であり、その完成度は他の劇場ではなかなか味わうことができませんでした。


しかし今作ではプロジェクションマッピングを使用した映像による空間演出が前面に出ていて、今までの作品で見られた身体による空間の演出は後ろに退いているようでした。現在、四季以外のミュージカルでも映像技術がどんどん用いられています。その背景には、アニメーションのミュージカル作品における空間表現の向上があるという仮説を述べてきました。観客の側に歌とともに空間が変貌することへの期待があって、そこには従来の機械装置や身体表現といったフィジカルな演出だけでは到達できないため、映像を使った壮大なスペクタクルが求められている状況なのではないでしょうか。


まとめ


以上、ミュージカル『アナと雪の女王』を、演出におけるアニメーションの影響という観点から分析してみました。本作は、エンターテインメントの新世界を体現したとても素晴らしい舞台作品でした。しかしそれと同時に、舞台作品において求められるものが今までとは違うものになってきているのではないかということを考えさせる作品でした。そこで少し寂しく感じる気持ちもあります。これまでの劇団四季作品で見られた舞台装置、美術セットや衣装による古典的でありながらダイナミックな演出が恋しいとも思いました。今後、従来の物理的な演出と、映像のスペクタクルの両方を統合したさらに素晴らしい演出が現れることを期待したいと思います。


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