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江戸時代の大ベストセラー美容雑誌?

  • 執筆者の写真: ゼミ 横山
    ゼミ 横山
  • 2021年3月14日
  • 読了時間: 4分

『都風俗化粧伝』を読む

山本麻未


はじめに

皆さんは毎日化粧をしていますか?化粧と一口に言っても、スキンケアやヘアスタイリングも化粧の一つと考えられていたり、近年は性別問わず化粧の文化が広がっていたりしていますよね。そんな毎日当たり前のように行っている化粧ですが、皆さんはどうやってこの技術を学びましたか?最初は家族の見様見真似から、いつしか雑誌を購入し、最近はYouTubeを見て学んだという人も多いのではないでしょうか。


私は、化粧もわざの伝承の一種と捉え、芸能研究ゼミでの活動に取り組んでいます。研究資料を探していたところ、江戸時代に、化粧に関するハウツー本が女性たちの間で売れに売れていた、という記事を見つけました。(出典:日本文化の入り口マガジン 和樂web)


江戸時代の美容雑誌?

今から約二百年前に大流行した書物、その名も『都風俗化粧伝(みやこふうぞくけわいでん)』。この本は、「顔面之部」、「手足之部」、「髪之部」、「化粧之部」、「恰好(かっこう)之部」、「容儀(かたちづくり)之部」、「身嗜(みだしなみ)之部」の七部で構成されています。


当時流行していた化粧やファッション、身嗜みの整え方などが記されており、特に女性からの人気が凄まじかったそうです。原本を手に入れることはできませんでしたが、東洋文庫から出版されている現代版を立教大学新座図書館で借りることができました。



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化粧を施している女性(東洋文庫 『都風俗化粧伝』 P.155)


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江戸時代の女性たち 基本の身だしなみ(東洋文庫 『都風俗化粧伝』 P.82)


驚きの治療法

第一部「顔面之部」では、顔を白くする薬や顔の病気を治す薬について紹介されています。どれも基本的に雑草などの植物、時には昆虫も用いた自然由来の薬です。真のオーガニックと言えるでしょう。


例えば、顔のほくろに対する治療法として、①カブの種をすり潰し毎晩塗る、②クワの木の枝を刻んで水と煮たものを塗る、などが挙げられています。現代でほくろを除去する方法はレーザー治療が一般的ですが、江戸時代の人々は毎晩薬を塗って根気強く治していたことが伝わります。本当に効いていたのかは定かではありませんが、②の方法には「よく去(と)れること妙也(みょうなり)。」という記載があり、不思議なほど優れた効果があったようです。



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鏡を使って化粧をする女性(東洋文庫『都風俗化粧伝』 P.162)


何のために化粧をするのか

皆さんは何の目的で化粧をしていますか?自信をつけるため?マナーだから?現代の人々が化粧をする目的は人それぞれでしょうし、定義付けされていません。では、江戸時代の女性たちの化粧の目的は何だったのでしょうか?


第七部「身嗜之部」の頭書にこんな記述があります。


「女の身の嗜みのよしあしにて、その人の意気(こころばえ)よく見ゆるものなれば、心を用い身だしなみを専一とすべし。身嗜みのあしきは大いに気圧(けお)されて謾(あなど)られ、笑わるるもの也。」(P.240)


意訳すると、「身だしなみの良し悪しはその人の配慮が反映されるので、第一に考えましょう。身だしなみが悪いと、周りから見くびられ、笑われます。」と書いてあります。


この文章から、江戸時代の女性たちは、他人から笑われないように必死に身なりを整えていたことがわかります。この時代の女性たちにとって、化粧は、自己表現の場でも、モテるためでもありません。周りと足並みを揃え、悪目立ちしないよう努めていたのです。これは多様化する現代とは大きく異なり、化粧の目的がはっきりと定められています。


終わりに

今回紹介した『都風俗化粧伝』には、現代の化粧に通じるスキンケア方法から、途絶えてしまったお歯黒の文化までもが載っていました。どの時代にも美意識が存在し、どこか受け継がれていきながらも今日まで進化を続けているように感じました。もしこの書物が大ベストセラーになっていなかったら、今頃我々の化粧や概念は変わっていたかもしれません。


気になった方はこちら

今回私が参考にした現代版は、1982年に平凡社東洋文庫版から出版された活字版です。読みやすく、おすすめです。こちらは立教大学新座図書館に所蔵されています。


原本の『都風俗化粧伝』は早稲田大学図書館サイトからも閲覧が可能です。





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