『プロデューサーズ』舞台と映画の違いとは
- ゼミ 横山

- 2021年3月17日
- 読了時間: 5分
加藤綾香
1968年に公開され、アカデミー脚本賞を獲得したミュージカル映画『プロデューサーズ』。2005年には再度映画化されました。2度の今ミュージカルの日本上演から12年を数えた昨年、3度目の日本語翻訳版が上演されたのを知っていますか?
主人公であるマックス・ビアリストック役はミュージカル界のプリンスと呼ばれている井上芳雄、レオ・ブルーム役は吉沢亮と大野拓朗のWキャスト、演出は数々のコメディ作品を生み出している福田雄一と、豪華なメンバーが揃ったミュージカルです。私は渋谷の東急シアターオーブにて2020年11月20日マチネ(大野レオ)公演、27日マチネ(吉沢レオ)公演を鑑賞しました。この物語のあらすじはこちらのオフィシャルサイトをご覧ください!
この記事では2005年公開の映画版と今年上演された福田雄一演出の舞台版を見比べ、演出の相違点を分析します。映画とミュージカルに違いがあって当然だろう!思われるかもしれませんが、どちらもうっかり見過ごしてしまいそうなところに観客を楽しませる工夫が織り交ぜられているのです。この記事によって、貴方の映画や舞台の見方が少しだけでも変わるかもしれませんよ。

劇場に入るとこのご時世のせいか観客の話し声はあまり聞こえず、オーケストラのチューニングの音だけが響いていました。生演奏の迫力は私が座っていた3階席にも溢れるほど伝わり、このミュージカルの劇中曲が混ぜられたOvertureから幕が上がっていく様子を見てこれから始まる物語に思わず胸が高鳴りました。
映画版と舞台版の違いとは
さて、本題に入りましょう。映画と舞台版を見て、その相違点は大きく二つあると感じました。
一つ目は冒頭、マックスがプロデューサーを務めたミュージカル『ファニー・ボーイ』が酷評を受け初日で上演を打ち切られてしまうシーン。映画では舞台の酷さを劇場から出てきた観客たちが歌いながら嘆き、曲が終わるとすぐにマックスとレオの出会いのシーンに移ります。
しかし舞台版ではその間にマックスの輝かしい過去の栄光を語るシーンが挟まれていました。「俺はブロードウェイのキングだったのに…」と過去の自身のカリスマ性と金と女を思うままに手にしていた豪遊っぷりを独白するマックス。映画版ではこのシーンがないため、マックスがブロードウェイプロデューサーとして素晴らしい功績を残していたという事実が印象に残っていませんでした。
その為舞台版ではマックスの落ちぶれた様子が強調され、もう一度あの頃のような金と女に塗れた生活を取り戻したいという欲望を持った人物という情報がインプットされました。
最低最悪なショーを求めていく中で、マックスはなぜ犯罪に手を染めてまで大金を得たいのか?舞台版ではこの目的を補填する役割として、冒頭のシーンが機能しているのです。
ミュージカル『プロデューサーズ』プロモーション映像(東宝公式Youtubeチャンネル)
そして二つ目。私はこちらを特に紹介したいのですが、時間の使い方が明らかに映画版と違ったのです。映画では、作り手から観客は見えない。観客を飽きさせず絶えず笑わせるために映画版ではリズム良くポンポンと会話が弾みます。
しかし舞台版では二種類の時間の使い方で観客の笑いを引き出していました。一つは同じボケの連続、所謂天丼です。序盤のマックスとレオが出会うシーンでは、マックスにからかわれたレオがパニックになりヒステリックを起こしてしまいます。映画版ではマックスがすぐさま水を掛け彼を落ち着けようとしていたが、舞台版ではこのヒステリックにかなり時間をかけていたように感じました。
大野レオはその場で倒れては起きを繰り返し、吉沢レオはえいっ!えいっ!とチョップをしながら辺りを回り続けていました。二人とも強制的に止められるまで何度も同じ動きを繰り返していましたが、これは舞台でなければできない演出です。同じ画を繰り返されても映画館の客は飽きてしまうでしょうが、生で起こっていることとなると周辺の客がクスクス笑う声、大の大人がギャーギャー騒ぎながら何度も同じボケを繰り返すレオのシュールさに触発され、笑いがこみ上げてくるのです。
このように同じボケの連続でボケの時間を引き伸ばすという演出が、会場に更なる笑いを生むのです。舞台版ならではの時間の使い方の一つと言えるでしょう。
ゲネプロ映像(Astage公式Youtubeチャンネル)
もう一つは沈黙の時間をあえて作るということ。マックスが逮捕され牢獄に収監されているシーン。彼はこれまでのはちゃめちゃな物語の経緯を歌と立ち回りで一人何役をもこなし再現します。
映画版ではスムーズに進行していたが、舞台版では曲の中盤にマックスがオーケストラに「休憩!」とストップをかけ、ベッドに座り込んでゼエゼエ…と息を切らします。パフォーマンスを中断して音のない時間を作り、息を整えながらちょっと待ってくれと言うように手を上げていました。再度歌い出す素ぶりを見せたかと思えばまた黙り込み、それを繰り返し沈黙の時間を引き伸ばしていました。
「いや歌わんのかい!」というツッコミが笑いとなって溢れ、マックスが投獄されるというシリアスな場面にも関わらず劇場には何度も観客の笑い声が湧いていました。
映画では観客がすぐに冷めたり飽きてしまう演出が、舞台では実行可能でありかつ本作をユーモア溢れる作品へ進化させる、調味料のような存在となっているのです。
まとめ
映画版ではスムーズであった物語の流れを舞台版ではあえて止めたり、引き伸ばしたり。
これらは物語の進行を一旦遅らせるものの、決して間延びしたように感じずただただ笑わされ、あっという間に終演時間を迎えてしまいました。
この全ての笑いは、演出・福田雄一の計算された物語とネタの融合と、キャスト陣の見事な演技力と間の取り方による産物なのでしょう。
リズム良くスピード感があり、物語の世界にいつの間にか深く入り込んで出て来ることができなくなってしまうほどのスピード感のある映画版『プロデューサーズ』、そしてそれを元にコメディ要素がふんだんに盛り込まれたミュージカル版『プロデューサーズ』。
シアターオーブでの上演はすでに終わってしまいましたが、映画版を見返して笑い、そこからふと舞台版のネタを思い出してまた笑う。そうして何度でも見て笑いたくなる、忘れがたい一作です。
ミュージカル『プロデューサーズ』オフィシャルサイト
東宝公式Youtubeチャンネル「TohoChannel」『プロデューサーズ』プロモーション映像

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